日薬理誌 113 (3), 133-143 (1999)


新しい細胞接着因子ギセリンの構造と機能解析

平 英一

大阪大学大学院医学系研究科情報薬理学教室
〒565-0871 吹田市山田丘2-2

要約: 我々は神経細胞からの突起伸展機構についての研究を行い、細胞外基質因子である神経突起伸展因子(NOF)を単離精製している。さらに、NOFと結合することにより神経突起伸展活性に関与している細胞側の因子としてギセリンを見いだした。ギセリンのcDNAクローニングを行い、ギセリンは免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜タンパク質であることを明らかにした。ギセリンの組織分布について検討を行い、神経組織においては発生初期にのみ発現が見られることを明らかにした。ギセリンの細胞接着因子としての機能は、ギセリン同士のホモフィリックな結合による細胞接着およびNOFとのヘテロフィリックな結合による細胞ー基質間接着であることを培養系を用いた実験より明らかにした。この2種類の結合形式は共に神経突起を伸展させるが、毛様体神経節細胞から伸展する突起の形態が、この2つの結合様式で異なることを見い出した。さらに、ギセリンには2種類のサブタイプがあることを明らかにした。各サブタイプの違いは細胞内領域に限られ、細胞内領域の短いものをS−ギセリン、長い細胞内領域を持つものをL−ギセリンと名づけた。2種類のサブタイプの機能を検討したところ、L−ギセリンはS−ギセリンに比べて細胞凝集能が弱く、さらにNOFとの結合力も弱いことが明らかになった。ギセリンはサブタイプによりその活性が異なること、さらに組織分布が異なることから、これらのサブタイプには異なった生理機能があることが示唆された。神経系においては、ギセリンは発生初期における神経突起伸展、細胞移動に関与し、神経組織の組織構築に重要な役割を果たしているが、それ以外に腎臓、気管支等の上皮組織においてもその発生、分化、再生、癌化等に関与していることも明らかにした。今後、ギセリンの発現調節、ギセリンを介するシグナル伝達機構についての解析を行っていきたい。

キーワード: 細胞接着因子、免疫グロブリンスーパーファミリー、細胞外基質因子、神経突起伸展、組織形成

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