日薬理誌 113 (3), 145-156 (1999)


尿失禁・頻尿改善薬 Propiverine hydrochlorideのラットおよびイヌ摘出膀胱における作用

金子 茂 (*), 中野 大三郎 (**), 大原 雅弘 (**),西森 司雄 (**)

大鵬薬品工業(株)製薬センター 薬理研究所 (*)
(株)環境バイリス研究所 研発部 (**)
(*) 〒771-0194 徳島県徳島市川内町平石夷野224-2
(**) 〒528-0052 滋賀県甲賀郡水口町大字宇川字稲場555

要約: propiverine hydrochloride (プロピベリン)は,尿失禁・頻尿の治療薬である.ラットおよびイヌ摘出膀胱標本において,プロピベリン (10-6 -3 x 10-5 M)はacetyIcholine cholride (アセチルコリン)用量反応曲線を右方へ平行移動し,最大収縮を抑制した.ラットおよびイヌにおけるpA2値はそれぞれ, 5.97および6.62であった.プロピベリンは100 mM KCI 収縮を用量依存的に抑制し, ラットおよびイヌにおけるIC50値は,それぞれ 3.9 x 10-6 Mおよび3.8 x 10-6 Mであった.テロジリンのラットアセチルコリン用量反応曲線から求めたpA2値は6.08であり,100 mM KCI 収縮から求めたIC50値は 6.6 x 10-6 Mであった.一方,オキシブチニンのラットアセチルコリン用量反応曲線から求めたpA2値は7.69であり, 100 mM KCI 収縮から求めたIC50値は4.5 x 10-6 Mであった.このようにオキシブチニンでは,抗ムスカリン作用および抗KCI作用の作用濃度に明らかな相違が認められたが,プロピベリンおよびテロジリンでは両作用が同濃度域で発現していることが示唆された.次に経壁電気刺激収縮に対する被験薬の作用について検討した.ラットおよびイヌ膀胱におけるテトロドトキシン(10-7 g/ml)による抑制率は,それぞれ76.6% および92.6%であった.プロピベリンおよびベラパミルにおいて本収縮の用量依存的な抑制が認められた濃度(それぞれ10-5 M 以上および 3 x 10-6 M以上)では, 抗KCI作用が明瞭に観察された.一方,ラット膀胱ではアトロピン (3 x 10-5 M) による抑制は認められず,またイヌ膀胱ではアトロピン (10-5M) により14.9%の抑制が認められたに過ぎなかった.以上の結果から,ラットおよびイヌ摘出膀胱標本において,プロピベリンの抗ムスカリン作用および抗KCI作用の両作用が認められるが,本薬のアトロピン抵抗性部分の収縮抑制には, 主として抗KCI作用が関与することが示唆された.

キーワード: ラット,イヌ,膀胱, 経壁電気刺激,アトロピン抵抗性部分

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