日薬理誌 113 (3), 185-192 (1999)


ラット血栓形成モデルでのワーファリンとビタミンK2の相互作用

原 久仁子,秋山 康博,富宇賀 孝,小林 正敏,川島 英敏

エーザイ(株)薬物応用研究部

〒112-8088 東京都文京区小石川4丁目6−10


要約: 血栓治療薬ワーファリン(WF)はビタミンKの拮抗薬であり、骨粗鬆症治療薬ビタミンK2(K2)と処方上禁忌である。しかし適応対象患者の年齢層が重なることから誤って同時に服用した場合のビタミンK2による血栓形成の促進が懸念されている。そこで、動物での血栓形成モデルにおいてWFの血栓形成抑制作用にK2がどの程度影響を及ぼすかを検討した。ラットの腹部下行大動脈にポリエチレンチューブを挿入しループ状に体外に露出させる方法で血栓形成モデルを作製した。このモデルにワーファリン(WF)0.58、0.82、1.16 mg/P各溶液を飲水として7日間与えた。7日後の血栓形成率はWF非投与群83%に対し、WF0.58、0.82、1.16 mg/P投与群ではそれぞれ73、33、10%であり、死亡率は非投与群13%に対しWF投与群ではそれぞれ13、40、76%と投与量に応じた増加傾向を示した。次にWF0.8 mg/P投与ラットを用いてK2との相互作用を検討した。WF 投与ラットに手術2日後 からK23用量(1.5、14、145 mg/kg)を混餌投与し、手術7日後の血液凝固時間と、7日間の血栓形成を観察した。その結果、血液凝固時間はWF投与によりWF非投与群の2.9倍にまで延長し、このWFによる延長はK2  1.5 mg/kg 投与によりほぼWF非投与群の値に低下した。血栓形成率はWF投与により有意に抑制され、K2 1.5、14 mg/kg群ではWF対照群との間に差を認めず、145 mg/kg群のみで有意な血栓形成率の上昇を認めた。しかしこのK2 145 mg/kg群もWF非投与群の血栓形成率との間には差を認めなかった。すなわち、K2はWFの血栓形成抑制作用を減弱するものの、血栓形成を異常に亢進させる可能性は低いことが推察された。

キーワード: ワーファリン,ビタミンK2,血栓形成率,ラット,血液凝固時間

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