日薬理誌 113 (4), 235-248 (1999)


肺血管運動とその循環調節上の意義

白井 幹康

国立循環器病センター研究所心臓生理部
〒565-8565 大阪府吹田市藤白台5-7-1



要約: 従来より肺血管系は、a)basal vascular toneが低い、b)低酸素に対して収縮応答を示す、

c)自律神経性調節が明確でない等の点で、体血管系と比べ、循環生理的に特異であるといわれてきた。しかし、これらの血管特性に関する研究は、肺循環の圧−流量および圧−容積関係の計測等による間接的解析法や特殊な肺血管部位(太い伝導肺血管)での血管張力計測で行われてきたため、その詳細について不明な点が多く残されていた。近年、新しい技術の開発により、a)肺血管末梢側の抵抗血管(直径:約100-500μm)と中枢側の伝導血管の血管運動様式が大きく異なること、b)肺交感神経活動の増大は肺血管収縮、拡張のいずれも起こし得ることが明らかになってきた。a)の原因として、nitric oxide (NO) 合成酵素あるいは血管平滑筋のK+ チャネルの両血管間での分布の違いが示唆されたことで、低いbasal vascular toneや低酸素性肺血管収縮を引き起こす肺血管の局所機構の詳細が見えてきた。また、b)に関してはinitial toneが重要で、肺交感神経活動の増大は、toneが高い時は主にbeta-adrenergic mechanismsを、低い時は逆にalpha-mechanismsを活性化し、肺循環のホメオスタシス並びに左、右心臓の拍出量のバランスの維持に働くことが示唆された。本総説では、正常時、急性および慢性肺胞性低酸素時、並びに出血性低血圧時の肺循環調節機構について、さらに肺高血圧症に対する選択的肺血管拡張法として注目されている吸入NOおよびプロスタサイクリンについて、私共の研究を中心に概説する。

キーワード: 抵抗および伝導肺血管、低酸素性肺血管収縮、一酸化窒素、K+チャネル、肺交感神経活動


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