日薬理誌 113 (5), 299-307 (1999)


消化管運動促進薬クエン酸モサプリドの薬効薬理

吉田 直之

大日本製薬(株)創薬研究所
〒564-0059 大阪府吹田市江の木町33−94

要約: クエン酸モサプリド(モサプリド)はモルホリン環をもつ新規なベン
ズアミド系の消化管運動促進薬である。モサプリドはラットの固形物および
液体物の胃排出を促進し、それらの効力はシサプリドと同程度で、メトクロ
プラミドより強かった。ラットの胃十二指腸境界部を切開縫合した後の胃排
出遅延モデルに対してモサプリドは有意な改善作用を示した。覚醒イヌにお
いてモサプリドは用量依存性に胃および十二指腸運動の促進作用が認めら
れ、この作用はシサプリドと同程度で、メトクロプラミドより強かった。モ
サプリドはモルモット摘出回腸縦走筋標本の電気刺激により誘発される収縮
を増大し、この増大作用は5-HT4受容体遮断作用を示すトロピセトロンによ
って拮抗された。また、モサプリドはモルモット回腸標本のホモジネートで
5-HT4受容体選択的なリガンドの[3H]GR-113808の結合を濃度依存的に阻
害した。さらに、覚醒イヌにおいてモサプリドの胃運動促進作用は
GR-113808や高用量のトロピセトロンによって完全に遮断された。モサプ
リドはラット脳シナプス膜のドパミンD受容体に親和性を示さず、マウス
の一般症状、マウス条件回避反応やラットの餌強化レバー押し反応に対して
影響を及ぼさなかった。一方、シサプリドやメトクロプラミドはいずれの試
験においても有意な抑制作用を示した。モサプリドは高濃度の10 microM
においてもモルモット摘出乳頭筋活動電位の持続時間に作用を示さなかった
が、シサプリドは0.1 - 3 microMにて濃度依存的に活動電位の持続時間を
著明に延長させた。また、麻酔ウサギのtorsades de pointes発現評価モデ
ルにおいて、モサプリドは作用を示さなかったが、シサプリドは心電図QT
間隔の延長と共にtorsades de pointesを発現させた。以上の結果から、モ
サプリドは選択的な5-HT4受容体アゴニストで、従来の薬剤とは異なりドパ
ミンD受容体遮断作用やQT延長作用のない新世代の消化管運動促進薬
であると考えられる。


キーワード: クエン酸モサプリド,消化管運動促進薬,セロトニン5-HT4受容体アゴニスト,慢性胃炎,シサプリド

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