日薬理誌 113 (5), 309-316 (1999)


遺伝子欠損細胞の作製とその応用

岡田 英孝 (1), 黒崎 知博 (2)

(1) 関西医科大学産婦人科
(2) 関西医科大学肝臓研究所分子遺伝学部門
〒570-8506 守口市文園町1-10-15

要約: 生命科学の研究は分子生物学や発生工学の進歩に

より,ジーンターゲティング,あるいはノックアウトマウ
スを用いてのアプローチがなされている.私たちは遺伝子
の機能解析のためにエワトリB細胞株DT40をモデルシ
ステムとして用いている.DT40細胞は,高等真核細胞で
起こりにくい相同DNA組み替えをおこしやすく,DT40
細胞を用いて特定遺伝子の欠損細胞を容易に作製できる.
DT40細胞の研究は,従来のノックアウトマウスを用いて
の研究に比べ,実験のコストが安価であり,1つの遺伝子
のcDNA断片が得られてから迅速に遺伝子の機能解析を
することができる.ノックアウトマウスと比較してDT40
細胞ではカリオタイプを含め表現型が安定で維持しやすく,
その細胞の詳細な生化学的解析・細胞生物学的解析を行う
ことができる.さらに近傍にある複数の遺伝子のノックア
ウトマウスを作製することは困難であるが,DT40細胞で
は最大3種類の遺伝子を欠損させた細胞を作製することが
できる.またDT40細胞において致死的な変異の導入の際
にはテトラサイクリンを用いた on-off の系を導入する
Tet-on/Tet‐off gene expression system や Cre‐loxP シス
テムのようなコンディショナルミュータントを作製するこ
とができる.実際に特定遺伝子の欠損細胞株の作製により,
それぞれの分子の機能解析を行うことができる.次に欠損
細胞に変異の分子を戻すことにより,その分子の各部分の
機能検定をすることもできる.このようにDT40細胞は細
胞レベルでの研究の格好な手段を与えてくれる.

キーワード: ジーンターゲティング, DT40細胞, BCR, SHIP, コンディショナルミュータント

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