シグマ受容体リガンドの抗精神作用
奥山 茂
大正製薬(株) 創薬研究所 創薬第一研究室
〒330-8530 大宮市吉野町1-403
要約: シグマ受容体拮抗物質に関する最近の研究成果を精神分裂病治療薬との関連でまとめた.選択的シグマ1受容体拮抗物質である
NE-100 はphencyclidine (PCP)誘発異常行動改善作用および認知障害改善作用を有するが,ドパミンアゴニスト誘発行動には影響を及ぼさず,カタレプシー惹起性も認められない.NE-100の作用機序はN-methyl-D-aspartate
(NMDA)/PCP 受容体イオンチャネル複合体の間接的な修飾作用およびドパミン作動性神経終末でドパミンの遊離調節作用が関与している可能性が示唆されている.また,最近報告された選択的シグマ1受容体拮抗物質
MS-355/MS-377 はNE-100と類似の薬理学的プロファイルを有するが,さらに,ドパミンD2受容体拮抗薬と同様にPCP誘発立ち上がり行動を抑制し,アポモルヒネクライミング行動およびメタンフェタミン逆耐性形成も抑制する.精神分裂病をターゲットとしたシグマ1受容体拮抗物質の臨床試験ではrimcazole,remoxipride,
BMY 14802,panamesine(EMD 57445) および SL 82.0715について報告されている.Rimcazoleはオープン試験では有効であったが,ダブルブラインド試験で痙攣が誘発され,臨床試験を断念している.RemoxiprideはドパミンD2受容体拮抗薬と異なった治療効果を示したが,再生不良性貧血の副作用のため開発を断念している.BMY
14802 は精神分裂病に無効であり,panamesineおよび SL 82.0714は精神分裂病を対象としたオープン試験では好成績をあげている.本総説では最近のシグマ受容体拮抗物質の薬理学的プロファイルおよび精神分裂病を対象とした臨床試験成績を中心にまとめた.
キーワード: シグマ受容体拮抗物質,フェンサイクリジン,興奮性アミノ酸,ドパミン,精神分裂病治療薬
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