シグマ受容体アゴニストの学習記憶障害改善作用
松野 聖
参天製薬(株)探索研究本部 薬理1研究グループ
〒533-8651 大阪市東淀川区下新庄3−9−19
要約: 1993年に古典的シグマ受容体アゴニストの代表格である (+)-SKF-10,047に学習記憶障害改善作用が報告されて以来、新規シグマ1受容体アゴニストの創製と各種痴呆症モデルでの検討が実施され、現在ではシグマ1受容体サブタイプが学習記憶形成過程に重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。また、その作用発現機序には脳内アセチルコリン神経系ならびに脳内ドパミン神経系が関与していることも既に証明されており、新しい作用点ならびに新しい作用発現機序を持つ抗痴呆薬候補化合物として新規シグマ1受容体アゴニストが注目されている。興味ある点は、この新規シグマ1受容体アゴニストの脳内神経賦活作用には部位特異性が存在していることであり、この部位特異性が1)低用量での薬効発現、2)各種健忘症モデルでの有効性、3)副作用の軽減、4)周辺症状の改善作用などを持ち合わせる要因になっているとも考えられ、臨床での高い有用性が期待されている。しかしながら、残念なことにシグマ受容体ファミリーのクローニング研究には進捗が無く、シグマ受容体の存在そのものに疑問が呈されており、選択的新規シグマ1受容体アゴニストが示す薬理作用も認められない傾向にある。この点を解消するためにも、1日も早くその存在を明確にする研究結果が報告されることを望むばかりである。
キーワード: シグマ受容体、シグマ1受容体アゴニスト、学習記憶、アセチルコリン、ドパミン
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