シグマ受容体の機能と遺伝子発現
仲田 義啓、井上 敦子、杉田 小与里
広島大学医学部総合薬学科薬効解析科学講座
〒734-8551 広島市南区霞1丁目2-3
要約: シグマ(sigma)受容体は中枢神経系に存在し、ハロペリドールやコカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうること、精神分裂病患者で受容体数の減少および遺伝子の多型が観察されたことから、精神機能に関与していることが示唆されている。しかしsigma受容体の生理的機能については未だ不明な点が多く、思索の域をでない状態であるといえる。sigma受容体には2つのサブタイプ(sigma1、sigma2)が見い出され、sigma1受容体はそのcDNAとゲノムが複数の動物種でクローニングされている。sigma受容体の中枢神経系での機能を明らかにする目的で、モルモットおよびラットにハロペリドールを慢性投与し、sigma受容体結合活性とsigma1受容体をコードするmRNAを定量解析した。その結果、ハロペリドールは、sigma1、sigma2両受容体に同等の親和性を有しているにもかかわらず、慢性投与により、sigma1受容体結合量は減少したが、sigma2受容体結合量は変化しなかった。この結合量減少作用はモルモットにおいてラットより著しく大きく観察された。また、モルモットとラットにおいてsigma1受容体mRNAはハロペリドール慢性投与により影響を受けないことが明らかになった。以上の結果より、sigma1とsigma2受容体はin
vivoおいて異なった機構により制御されている可能性が考えられた。また、ハロペリドールによるsigma1受容体結合量の減少は受容体の遺伝子からの転写活性減少によるものではないことがわかった。さらに、モルモットとラットのsigma受容体に対するハロペリドールの作用の相違から、ハロペリドール投与による臨床効果を考える上で代謝産物のsigma受容体への影響を考慮すべきであることが示唆された。
キーワード: シグマ受容体、 ハロペリドール、reduced haloperidol 、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ、種差
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