日薬理誌 114 (4), 213-218 (1999)


新規勃起不全治療薬シルデナフィル(バイアグラ(R))の薬理学的特徴
―有効性および硝酸剤との相互作用―  

表  雅之

ファイザー製薬(株)中央研究所
〒470-2393 愛知県知多郡武豊町字5-2

要約: 陰茎勃起は,性的刺激により陰茎海綿体が弛緩することにより発現する.この海綿体の弛緩には,非アドレナリン非コリン作動性神経あるいは海綿体内皮細胞から遊離される一酸化窒素(NO)およびそのセカンドメッセンジャーであるcGMPが重要な役割を果たしている.シルデナフィル(バイアグラ(R))は,ヒト陰茎海綿体のcGMP分解酵素であるホスホジエステラーゼタイプ5(PDE5)の活性を選択的に阻害し,NO供与剤であるニトロプルシッドナトリウムとの併用により,摘出ウサギ海綿体内のcGMP量を増大させた.また,経壁電気刺激により発現する摘出ヒト陰茎海綿体のNO依存性弛緩反応を増強し,麻酔イヌの骨盤神経刺激によるNOを介する海綿体内圧の上昇を血圧および心拍数に影響を及ぼすことなく増大させた.しかし,神経刺激がない状態,即ち,NO非存在下では,陰茎海綿体標本および海綿体内圧に直接的な作用を示さなかった.シルデナフィルを経口投与した勃起不全患者に視覚的な性的刺激を与えると,陰茎の硬度が増大した.シルデナフィルは,ウサギ摘出大動脈のフェニレフリン収縮にほとんど影響を及ぼさなかったが,硝酸グリセリンの血管弛緩作用を増強した.シルデナフィルと硝酸剤との相互作用はヒトにおいてもみられ,静脈内および舌下投与した硝酸グリセリンによる血圧低下がシルデナフィルとの併用により増大した.以上の結果から,シルデナフィルは,性的刺激の存在下で生理的な陰茎勃起の過程を経口投与により増強する新規勃起不全治療薬と考えられた.ただし,血管平滑筋のPDE5阻害により,シルデナフィルは硝酸グリセリンの血圧低下作用を増強したことから,シルデナフィルと硝酸剤やNO供与剤との併用は禁忌とした.

キーワード: シルデナフィル(バイアグラ(R)), ホスホジエステラーゼタイプ5阻害薬, 一酸化窒素(NO), 陰茎海綿体, 硝酸剤との薬物相互作用

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