横山 俊英
協和発酵工業(株)医薬総合研究所
〒411-8731 静岡県駿東郡長泉町下土狩1188
要約: トロピセトロンは1985年に合成された初めての5‐HT3受容体拮抗薬で,既に臨床において抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐の抑制剤として用いられている.トロピセトロンは,5‐HT3受容体に強い親和性を示し,また,5‐HT3受容体の1/80‐1/200程度の親和性で5‐HT4受容体に対しても作用する.In
vitroにおける機能的な検討でも,強い5‐HT3受容体拮抗活性と弱い5‐HT4受容体拮抗活性を持つことが示されている.一方in
vivoにおいては,抗悪性腫瘍剤や放射線などによる種々の嘔吐動物モデルを用いてトロピセトロンの有効性が示されている.また抗悪性腫瘍剤誘発モデルにおいて,i.p. 投与よりもむしろp.o. 投与において強力な制吐活性を発現することから,トロピセトロンには一旦消化管から吸収されて全身性に作用する以外にも,小腸粘膜側から直接作用する経路があると考えられる.また,トロピセトロンはメトトレキセート誘発嘔吐や高用量シスプラチン誘発嘔吐など,他の特異的5‐HT3拮抗薬には作用が認められない嘔吐モデルにおいても嘔吐を抑制する.この作用が特異的な5‐HT3受容体拮抗薬と5‐HT4受容体拮抗薬を併用した場合の作用と類似していることや,またトロピセトロンが5‐HT4受容体作動薬による嘔吐を抑制することから,トロピセトロンの制吐作用には,5‐HT3受容体拮抗活性以外にも5‐HT4受容体拮抗活性が関与していることが示唆される.さらに,トロピセトロンには制吐作用以外にも,胃排出亢進や抗下痢,内臓痛抑制,抗不安などの作用が報告されており,これらの作用がトロピセトロンの強力な制吐作用に関与している可能性が考えられる.
キーワード: トロピセトロン, ナボバン, 5‐HT3受容体,
5‐HT4受容体, 嘔吐
日本薬理学雑誌のページへ戻る