日薬理誌 114 (4), 227-231 (1999)


多極電極マッピング法を用いた歩調取り活性部位と洞調律の評価とその応用

古川 安之

松本協立病院内科
〒390-8505 松本市巾上9-26

要約: 調律を調節する歩調取り電位を持つ細胞群は洞結節だけでなく心房内の他の歩調取り部位(洞結節の上大静脈・右心房前面の部位,いわゆるBachmann's bandleや洞結節の下部領域など)にも存在することが知られてきた.しかし,これらがどのように心房調律を調節しているかについての報告は殆ど無く,心房不整脈の理解も含めて研究が必要と思われる.そこで,我々は多極電極マッピング法を麻酔犬の心臓に応用し,最早期興奮部位と心房周期を検討することによって歩調取り部位と心房調律に対する自律神経あるいは歩調取り電位を調節する薬物の作用を検討したのでその方法と結果について述べる.実験はペントバルビタール麻酔開胸犬で行った.歩調取り細胞は多極電極から得られた最早期興奮部位内にあると考え,最早期興奮部位を右心房前面と洞結節領域を含む右心房後面を覆うことができる48極の単極電極からなる2つの電極板を用い求めた.電極は直径1 mm,電極間は横3 mm,縦5 mmとした.48極の単極電極からのデータはFUKUDA DENSHIのHPM‐7100を用い解析した.3 msの等時線図を作成し,最早期興奮部から3 msまでの領域を最早期興奮部位とした.この多極電極マッピング法を用いて,(1)交感・副交感神経活動によって最早期興奮部位が移動すること,(2)交感・副交感神経相互作用において最早期興奮部位の移動についても副交感神経優位であること,(3)心房内歩調取り細胞のCa2+電流,過分極誘発内向き電流,遅延整流K電流の役割が異なることなどが示され,多極電極マッピング法を用いることによって更に多くの情報が得られることが期待される.

キーワード: 等時線図, 最早期興奮部位, 心房調律複合体, ペースメーカシフト, 歩調取り電位

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