虚血障害増悪因子であるリゾホスファチジルコリンによる心筋細胞障害
橋爪 裕子 (1)、安孫子 保 (2)
(1) 旭川医科大学薬理学教室
〒078-8510 旭川市西神楽4線5号3-11
(2) 北都保健福祉専門学校
〒078-8308 旭川市旭神町3番4
要約: 細胞膜構成リン脂質であるホスファチジルコリンの代謝産物リゾホスファチジルコリン(LPC)は,虚血に陥った心筋組織中に蓄積してくる.心筋細胞にLPCを投与すると,細胞内のCa2+濃度が上昇し,心筋細胞の形態が桿状から球状へ変化し,またクレアチンキナーゼを遊出させる.従ってLPCは心臓の虚血障害増悪因子として重要であると思われる.心筋細胞におけるLPCによるカルシウムオーバーロードのメカニズムは,(1)非選択的陽イオンチャネル(小孔)を活性化して,直接細胞外から内へCa2+が流入することと,(2)非選択的陽イオンチャネル(小孔)やその他の経路を介して細胞内Na+濃度が上昇して,これがNa+‐Ca2+交換系を介するCa2+の流入をおこすことの2つが考えられる.β受容体遮断薬やカルシウムチャネル遮断薬などの中で,脂溶性が高い薬物は,LPCによる心筋細胞障害を抑制することがわかった.今後,LPCによる心筋細胞障害を完全に抑制できるような薬物が開発されれば,虚血心筋保護薬や臓器移植の際に臓器を保護する薬物として大いに期待できるであろう.
キーワード: 心筋虚血障害, リゾリン脂質, カルシウムオーバーロード,
日本薬理学雑誌のページへ戻る