家族型アルツハイマー病原因遺伝子プレセニリンの分子細胞生物学
富田 泰輔,岩坪 威
東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
要約: アルツハイマー病(AD)脳に蓄積する老人斑アミロイドの主成分として知られるAβは膜タンパク質であるβAPPから切り出され,細胞外に分泌される.その中でもC末端が第42残基まで伸びたAβ42は凝集性が高く,アミロイドとして優先的に蓄積する.AD発症のメカニズムとして,このアミロイド沈着が重要であるとする「アミロイド仮説」が広く信じられている.早期発症型家族性AD(FAD)の原因遺伝子としてクローニングされたβAPPの変異は全Aβの産生量またはAβ42の産生量を増加させる.最近新たにFADの原因遺伝子としてクローニングされたプレセニリン(PS)1,2の変異もやはりAβ42の産生を特異的に上昇させ,トランスジェニック動物ではアミロイド班の沈着を促進することから,Aβ,特にAβ42の産生・沈着機構はFAD発症に深く関係していることが明らかとなった.またPSはAβの産生機構の中でもAβの凝集性を決定する最C末端の切り出し(γ切断)に必要不可欠な因子であることも判明した.さらに線虫,ショウジョウバエ,マウスを用いた遺伝学的な解析により,PSは発生過程においてNotchシグナリングにも重要な役割を果たしていることが分かった.PSは小胞体に存在し,安定化・プロセシングを受けることによって機能をもつ特殊な膜タンパクであるが,分子的実体は依然として不明である.様々な膜タンパクの代謝,特に膜近辺のタンパク分解に関わると考えられるPSの研究はAD治療・予防薬の開発のみならず生物学的にも重要な意味を持つと考えられる.
キーワード: アルツハイマー病, Aβ, βAPP, プレセニリン, Notch
日本薬理学雑誌のページへ戻る