サイトカインと神経伝達物質ATP
森際 克子 (1)、福田 淳 (1)、山下 勝幸 (2)
(1)大阪大学大学院医学系研究科 A5, 情報生理学講座生理学第二教室
〒565-0871 吹田市山田丘2-2
(2)奈良県立医科大学第一生理学教室
〒634-8521 奈良県橿原市四条町840
要約: 中枢神経系における傷害,虚血に際して,免疫細胞であるミクログリアやグリア細胞が活性化され,サイトカインを分泌して侵入物の撲滅と組織修復を図る.この免疫細胞が,プリン受容体のイオンチャネル型P2XおよびGタンパク共役型P2Yを発現し,傷害された細胞から放出されるATPに応答して,その機能を変化させることが明らかとなって来た.単離培養されたラット網膜ミクログリアでは,非刺激下で,Gタンパク共役型P2U(P2Y2,P2Y4)とイオンチャネル型P2Z(P2X7)が同等に発現しているのに対して,LPS刺激下では,P2Z優位となり,そのCa2+応答が増大する.一方,虚血(低酸素1%濃度)下で活性化されたミクログリアはP2UとP2Zの両受容体の感受性が共に高く,また,P2Uの応答が優位である.この低酸素濃度下では代謝型P2Uの活性化を介してミクログリアの増殖が誘導され,P2Uによる細胞内Ca2+動態と容量性流入がこの増殖機構に関与していると考えられる.さらに,LPS刺激と低酸素の両活性化においてTNF‐alphaとIL‐1βの分泌が見られ,その分泌がP2ZのアゴニストBzATPにより亢進し,アンタゴニストoATPにより抑制されることから,P2Z(P2X7)受容体がサイトカイン分泌機構に関与していると考えられる.P2Z(P2X7)はまた同時に増殖を阻止し,アポトーシスを誘導する.このP2Z(P2X7)受容体は,マクロファージ,単球,線維芽細胞のいずれにもあり,サイトカインのみならずプラスミノゲンの分泌にも関与する.TNF‐alphaの転写,遊離にはMAPキナーゼのp44/42およびp38が関与することが示唆されており,P2Z(P2X7)の活性化はCa2+依存性に,NFAT,NF‐κBをも活性化させて,増殖のシグナル経路を阻止し,アポトーシス誘導経路とp44/42とp38を介する分泌経路を駆動する可能性がある.
キーワード: ラット網膜ミクログリア, P2Z(P2X7), P2U(P2Y2,P2Y4),
TNF‐alpha, IL‐1β
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