日薬理誌 115 (4), 244-250 (2000)


質量分析によるエイコサノイドの微量定量法

水柿 道直

東北大学医学部附属病院薬剤部
東北大学大学院薬学研究科医療薬科学専攻病態分子薬学
〒980-8574 仙台市青葉区星陵町1-1

要約: プロスタグランジン(PG),トロンボキサン(TX),ロイコトリエン(LT)などのエイコサノイドは,アラキドン酸やエイコサペンタエン酸などを前駆物質として産生される一連の化合物である.エイコサノイドは,強力かつ多様な生理活性を示すとともに生体内の病的変化と密接に関係している.したがって,これらの化合物の定量的解析は疾患の発症,進行および治療効果の判定などに応用しうる.しかし,エイコサノイドは産生量がごく微量であること,活性体の生体内半減期が短く活性体自体を測定するのは困難であること,構造類似体が多数存在することなどから,定量的解析には感度の他に高度な化合物選択性および高いS/Nで目的物を検出することが要求される.このような観点から,エイコサノイドの定量的解析にはガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)が有用な手段の一つとされている.我々もGC/MSを用いて数多くのエイコサノイドの定量法を開発し,強力な血小板凝集能を示すTXA2と抗血小板凝集能を示すプロスタサイクリン(PGI2)の産生比と病態との関連性などを検討し,その臨床応用を行ってきた.しかしながら,GC/MSは,感度および化合物選択性に優れる反面,試料の煩雑な前処理が必要であるという点に問題を残す.これに対し,液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)は,煩雑な前処理を必要としないため生体試料中の微量成分を簡便に測定することが可能である.先に我々は,液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS‐MS)によるLTE4の定量法を確立したが,ここでは,最新の知見としてTXA2の尿中安定代謝体11‐dehydro TXB2の測定法について記述する.

キーワード: ガスクロマトグラフィー/質量分析法, 液体クロマトグラフィー/質量分析法, エイコサノイド, トロンボキサン, ロイコトリエン

日本薬理学雑誌のページへ戻る