日薬理誌 116 (3), 125-131 (2000)


グルタミン酸受容体の薬理学―アゴニストを中心として―

篠崎 温彦

〒330-0032 埼玉県大宮市今羽町477-17-15-507

要約: 神経伝達物質の研究に必要な種々の生理活性物質が天然化合物の中に隠されていると信じ,グルタミン酸感受性シナプスに対する種々の天然薬物の働きを調べてきた.その結果,幸いにも数種の極めて強力で有用なグルタミン酸受容体アゴニストを見いだすことに成功した.これらのアゴニストは現在のグルタミン酸受容体の基礎生物医学研究に必須の薬物として世界中の研究者により汎用されている.カイニン酸は興奮毒性薬の代表として神経変性疾患の実験室レベルでの研究を可能にし,また受容体サブタイプの分類に貢献した.キスカル酸は,カイニン酸と並んで,グルタミン酸受容体サブタイプ分類に大きく寄与すると共に,fast‐EPSP生成をはじめとするグルタミン酸の生理学的機能の解明に貢献した.アクロメリン酸はカイニン酸の骨格を含有しながらカイニン酸とは異なって脊髄下部の抑制性介在ニューロンを特異的に破壊し,カイニン酸とは全く異なるタイプの神経変性疾患のモデル動物を作ることができる.一方,これらのイオンチャネル型受容体のアゴニストとは別に,CCGの構造異性体の一つ,L‐CCG‐Iは,trans‐ACPDと並んで代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)の薬理学的研究の礎となり,mGluRの機能解明に結びついた.DCG‐IVはL‐CCG‐Iのカボキシル誘導体であるが,強力なGroup IIのmGluRのアゴニストであり,カイニン酸誘発痙攣や神経細胞死を極めて低用量で阻止し,Group IIのmGluRのアゴニストは新しい医薬品の候補として脚光を浴びつつある.コンフォーメーションを微妙に変化させたL‐F2CCG‐Iはいわゆる‘priming’作用を呈し,新しいグルタミン酸トランスポーターの働きとの関連が期待されている.

キーワード: 神経伝達物質, グルタミン酸, 興奮毒性, カイニン酸, 代謝調節型受容体

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