日薬理誌 116 (3), 149-157 (2000)


薬理ゲノミクスの新しい展開

藤田 芳司

グラクソ・ウエルカム株式会社 研究本部
〒300-4247 茨城県つくば市和台43


要約: 21世紀の医療はEvidence based medicine,Tailor(Custom)made medicine,Personalized medicineなどといわれているが,別の表現をすれば“Right drug to right patient at right time by right dose”というように個々の患者に最適の薬を提供できる医療でもある.薬理ゲノミクスは全解明されつつあるゲノムの情報を基に,薬に対する種々の生理現象をより本質的に解明できる有効な手段であり,21世紀の医療・創薬に大きなインパクトを与えると予測される.それらを大別すると以下の3つが想定される.後に詳述するが第1には短期的インパクトで,既存薬および開発後期段階の化合物の副作用を低減したり薬効を高めるためのアプローチである.第2は中期的なインパクトで,開発初期段階において薬効に関連した遺伝子の転写調節(プロモーター)領域やコード領域を調べておくことで,質の高い臨床試験をデザインしようというものである.第3のインパクトは長期的なもので,疾患感受性遺伝子群から創薬ターゲットを見出しスクリーニングすることから始まる.これはゲノム創薬といわれる新しいアプローチで,多分野において芽生えている新技術の価値をいかに早く評価・融合して研究戦略に組み込めるかという『Systematic(Integrated)approach』とも言える.今後,疾患感受性遺伝子の同定における国際的な競争は激化することが予想され,SNPs解析の応用,薬理プロテオミクスの効率化と構造ゲノム科学の融合は,薬理ゲノミクスの一つの重要な焦点になるであろう.

キーワード: 薬理ゲノミクス, ゲノム創薬, SNPs, プロテオミクス, 構造ゲノム科学

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