日薬理誌 116 (3), 163-170 (2000)


各分野からの薬理学教育に対する提言―時代潮流の変化の中にあって―

田中 正敏 (1)、三澤 美和 (2)

(1) 久留米大学医学部薬理学教室
〒830-0011 久留米市旭町67
(2) 星薬科大学薬理学教室
〒142-8501 東京都品川区荏原2-4-41


要約: 日本薬理学会では第67回年会(1994年)以来,薬理学教育全般をテーマとしたシンポジウムは行われていない.現今,薬理学をとりまく環境は大きく変化している.第73回年会ではこうした状況を踏まえ,企画教育委員会が中心となって,薬理学教育の現在の問題点と今後のあり方についてシンポジウムを企画し実施した.薬理学を含めライフサイエンス分野の研究の手法とストラテジーは最近急速な変化を遂げつつあり,学問分野の境界も不鮮明になってきている.“薬理学とは何?これからどういう位置づけになる?”という当惑あるいは不透明感を,薬理学を対象としてきた研究者や教育者が否応なく今日意識しているに違いない.本シンポジウムでは基礎医学(生化学),臨床医学(病院内科),病院薬剤部,製薬企業,行政(厚生省)といった5分野の識者から,これからの薬理学教育に対する提言をしていただいた.5人の演者の講演内容を振り返ってみると,どの分野からも実用的薬理学教育の必要性が提起された.医学部の教育にあっては,診断面偏重からもっと治療面を重視していくべきである.薬物療法を高度化するため薬理学と臨床薬理学の教育を充実すべきである.また医師国家試験科目に薬理学を加える必要がある.薬学部の教育にあっては,医療チームの一員として責任をもって医薬品の適正使用を引き受けられる資質を備えた薬剤師の育成が時代の要請である.また新薬創製を進める製薬企業の研究に従事する者のためには,世界に新薬を提供できる力のついてきたわが国の創薬技術を担えるよう,狭い枠から脱却した新しい感覚の薬理学教育が要望された.ともあれ21世紀を迎えるにあたり,薬理学教育には沢山の課題が山積しており,どの学部も同じ内容とスタイルの薬理学教育は時代的限界に来ている可能性があり,このシンポジウムを機にこうした教育面の論議が今後盛んになっていくことを期待したい.

キーワード: 薬理学教育, 各分野からの提言, 医学部, 薬学部, 歯学部, 看護学部

日本薬理学雑誌のページへ戻る