日薬理誌 116 (4), 215-223 (2000)


新規ビンカアルカロイド系抗癌薬酒石酸ビノレルビン(Navelbine R)の 抗腫瘍作用の特徴

金澤 純二 (1)、森本  眞 (2)、大森 健守 (1)

(1) 協和醗酵工業株式会社医薬総合研究所
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(2) 協和醗酵工業株式会社医薬カンパニー医薬開発本部医薬開発センター
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要約: 酒石酸ビノレルビン(VNR)はPotierらによって半合成された新規のビンカアルカロイド誘導体である.VNRは他のビンカアルカロイドと比べ同等以上の抗腫瘍効果を示し,神経毒性が弱いという特徴を持つ.ヌードマウス移植ヒト腫瘍モデルにおいて,VNRはヒト腫瘍11株(非小細胞肺癌:4株,乳癌:3株,結腸癌:2株,胃癌:2株)のうち,非小細胞肺癌4株,乳癌2株および胃癌2株,計8株に対して有意な増殖抑制効果を示した.特にVNRは非小細胞肺癌のLC‐6および乳癌MX‐1に対して腫瘍の退縮を伴う抗腫瘍効果を示した.VNRの非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果は,非小細胞肺癌の適応を持つビンカアルカロイド系抗癌薬のビンデシン(VDS)と比べ優れていた.また,VNRとシスプラチン(CDDP)との併用療法は,従来の標準療法であるVDSとCDDPとの併用に比べ優れていた.VNRの低神経毒性は,VNRの有糸分裂期の紡錘糸微小管に対する作用よりも神経軸索の微小管に対する作用が弱いことに起因すると考えられた.神経軸索の微小管が紡錘糸微小管より低感受性であることについては,微小管構成タンパクの一つであるTAUタンパク異性体の関与が推察された.臨床において,VNRは非小細胞肺癌に対して従来のVDSに比べ有意に高い奏効率を示し,CDDPと併用するとVDSより奏効率および生存期間において有意に優れていた.乳癌に対しては,1st lineだけでなく2nd lineとしても優れた奏効率が報告され,更にアントラサイクリン,5‐FU,Taxol等との併用で,優れた腫瘍効果が報告されている.本邦においては,現在,乳癌を対象とした治験が進行中である.


キーワード: 酒石酸ビノレルビン, ナベルビン, ビンカアルカロイド系抗癌剤, 非小細胞肺癌, 乳癌

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