逆耐性現象の新展開
氏家 寛
岡山大学医学部神経精神医学教室
〒700‐8558 岡山市鹿田町2‐5‐1
e‐mail: hujike@cc.okayama‐u.ac.jp
要約: 覚醒剤(METH)やコカインといった中枢興奮薬の反復投与で逆耐性現象が生じる.これは精神依存や精神病のモデルとして知られる.これまで逆耐性現象の分子機構としてはdopamine(DA)放出増大によるD1DA受容体刺激に始まるアデニル酸シクラーゼの活性化,cyclic
AMPの増加,プロテインキナーゼAの活性化とそれによる種々のリン酸化という系と,興奮性アミノ酸放出によるNMDA受容体活性化とそれに続く細胞内Ca2+濃度の上昇,Ca2+/calmodulin
complexの形成,カルシニューリン,CaM‐K II,nitric oxide synthaseなどのリン酸化に至る2つの系が重要であることが示されてきた.逆耐性研究の新たな展開として,3つの方面からレビューした.Knockout(KO)法を用いた研究からは,D1DA受容体KOマウスやDA transporter KOマウスでも逆耐性や依存が生じうることが示され大きなインパクトを与えた.また,vesicular
monoamine transporter 2,5HT1B受容体,delta‐FosBの重要性が明らかとなった.神経可塑性といった面からのアプローチではtissue
plasminogen activator,arc(activity‐regulated,cytoskeleton‐associated),synaptophysin,stathminなどの分子の関与が明らかにされた.逆耐性に関わる新規遺伝子の探索という面では,differential
display法などによってmrt‐1,NAC‐1,CARTといった分子が見出され,その役割の解明が進んでいる.
キーワード: 逆耐性現象,メタンフェタミン,コカイン,分子機構,神経可塑性
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