モルヒネ依存およびその報酬効果の形成機序−NMDA受容体サブユニットの関与−
成田 年,青木 健,鈴木 勉
星薬科大学薬品毒性学教室
〒142‐8501 東京都品川区荏原2‐4‐41
e‐mail: suzuki@hoshi.ac.jp
要約: グルタミン酸受容体は,中枢神経における興奮性シナプス伝達の中心的な役割を果たしており,学習・記憶などのシナプスの可塑性に関与するばかりでなく,種々の神経変性疾患の発症メカニズムに深い関連性を持つ.イオンチャネル内蔵型のNMDA受容体を構成するサブユニットには,脳内分布や発現時期,機能特性や活性調節を異にする多数の分子種が存在し,受容体チャネルの機能的多様性を決定している.一方,モルヒネは抑制性のGABA神経系を抑制することにより中脳辺縁ドパミン神経系の活性化を引き起こし,側坐核からのドパミン遊離を促進することにより,強化効果や報酬効果などの精神依存を形成する.モルヒネ鎮痛耐性および身体依存形成過程でのNMDA受容体の関与が見出されて以来,モルヒネ依存におけるNMDA受容体の役割についての研究が精力的に行なわれており,報酬効果の形成においてもNMDA受容体の関連性が数々報告されている.最近我々の研究室において,特異的抗体を用いた研究によってNMDA受容体サブユニットのうち,特に側坐核のNR2Bサブユニットがモルヒネ報酬効果形成機構に重要な役割を果たしていることが確認されている.また,モルヒネ依存はprotein
kinase C(PKC)によって調節を受けることも明らかにされている.このように,分子神経生物学の進歩によって,複雑なモルヒネ依存の形成機構は次第に明らかにされており,今後,新しい技術を取り入れた更なる研究の発展が期待される.
キーワード: モルヒネ,依存,報酬効果,NMDA受容体,プロテインキナーゼC
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