ニコチン依存ならびに報酬効果に関する新展開
宮里 勝政
聖マリアンナ医科大学神経精神科
〒216‐8511 川崎市宮前区菅生2‐16‐1
e‐mail: miyasato@marianna‐u.ac.jp
要約: タバコ/ニコチン依存症は精神依存と身体依存の双方を含んでいる.臨床での最近のまとめは世界保健機構の国際疾病分類第10版に詳しい.ニコチンの強化効果がドパミン(DA)を介しているとの知見は増え続けている.DA受容体拮抗薬投与によりDA機能を阻害すると,ニコチンの弁別刺激能,ニコチンによる頭蓋内自己刺激の促進,ニコチン静脈内自己投与,ニコチンの条件性場所嗜好性が影響を受ける.側坐核での細胞外液中のDA増加はニコチン自己投与には欠かせない現象である.最近では,腹側被蓋野のα7ニコチン性受容体が中脳辺縁系DA神経でのニコチンの急性効果,強化効果,退薬症候の発現に関与していることがわかってきた.腹側被蓋野のN‐methyl‐D‐aspartate(NMDA)受容体へのグルタミン酸の作用もニコチンが側坐核においてDA放出を促進するのに必要である.分子遺伝学的研究からは,喫煙がセロトニントランスポーター遺伝子と神経質性(neuroticism)双方が同時に存在することにより強く影響されることがわかっている.臨床的には抗うつ薬であるbupropionが米国ではニコチン依存症者への処方薬になっている.その効果は側坐核でのDA濃度を高めることによると考えられている.
キーワード: 喫煙,ニコチン,依存,報酬,ドパミン
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