薬物自己投与実験法を用いての“薬物依存症”の動物モデル
山本 経之,藪内 健一,山口 拓,中路 将徳
九州大学大学院薬学研究院薬効解析学分野
〒812‐8582 福岡県福岡市東区馬出3‐1‐1
e‐mail: tyamamot@phar.kyushu‐u.ac.jp
要約: 本論文では,(1)渇望状態や薬物探索行動の動物モデルと,(2)それらの発現機構について,コカイン自己投与実験を中心に概説する.実験動物において,自己投与行動習得後薬物を生理的食塩液に置換しても激しいレバー押し行動が観察される.この行動を薬物探索行動と捉え,薬物自己投与の終了からの時間経過によって,within‐sessionモデルとbetween‐sessionモデルとに区別する.一方,生理的食塩液によるセッションを反復すると,薬物探索行動は消去(extinction)されるが,少量の薬物再投与,ストレス付加および薬物関連刺激の呈示によって探索行動が再発する.これを再発(relapse/reinstatement)モデルと呼ぶ.電気生理学的研究によって,コカイン自己投与中のラット側坐核ニューロンの発火頻度は,レバー押し直後に抑制され,次のレバー押しまで漸増的に回復する現象が見い出された.こうした特異的な発火パターンは,渇望状態や薬物探索行動を反映している可能性がある.マイクロダイアリシス法による検討によると,薬物探索時のレバー押し行動は,側坐核のドパミン濃度の変動によって予測できる可能性が指摘されている.ドパミンD2様受容体作動薬はコカインの強化効果を増強し,コカイン探索行動の再発を生じさせるのに対し,D1様受容体作動薬はコカイン摂取行動を減少させ,コカイン探索行動を消失させる.コカイン再投与によって惹起されるコカイン探索行動は,AMPA受容体拮抗薬の側坐核内注入により抑制されたが,ドパミン受容体拮抗薬では抑制されなかったことから,側坐核内のグルタミン酸伝達は,渇望や薬物探索行動の発現にとってより重要な役割を担っていることが示唆される.今後,薬物依存症の解明に向けてより妥当性の高い薬物探索モデルの確立が望まれる.
キーワード: 薬物自己投与,薬物探索行動,“薬物依存症”モデル,ドパミン,再発
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