炎症・免疫応答におけるヒスチジンデカルボキシラーゼの誘導
遠藤 康男
東北大学 大学院歯学研究科 口腔生物学講座 歯科薬理学分野
〒980‐8575 仙台市青葉区星陵町4‐1
要約: ヒスタミンは動脈・静脈の収縮,細動脈の拡張,細静脈の拡張または収縮をもたらす.また,血管内皮細胞に作用して毛細血管の透過性を亢進し,免疫担当細胞の毛細血管でのローリング・接着・浸潤を促進し,ケモカインやサイトカインの産生を修飾し,Th1/Th2バランスにも影響する.抗体や補体の産生のみならず癌の転移・増殖にも影響を与える.ヒスタミンの供給機構としてこれまでは,肥満細胞と好塩基球からの遊離だけが考えられてきた.一方,SchayerとKahlsonはヒスタミン合成酵素のhistidine
decarboxylase(HDC)は誘導酵素であることを明らかにし,HDC誘導で産生されるヒスタミンは,産生と同時に遊離され,微少循環系の調節と細胞増殖に関与することを示唆した.Schayerはグラム陰性細菌のエンドトキシンまたはlipopolysaccharide(LPS)が強力なHDCの誘導物質であることも発見した.筆者らはマクロファージがHDCを誘導する因子を産生し,これがIL‐1であること,また,TNF,G‐CSF,GM‐CSF,IL‐3,IL‐12,IL‐18もHDCを誘導することを明らかにした.IL‐1,TNF,IL‐12,IL‐18は多くの組織(とくに毛細血管の豊富な組織)にHDCを誘導し,G‐CSFとGM‐CSFは造血組織(骨髄と脾臓)にのみHDCを誘導する.グラム陽性菌のペプチドグリカンもHDCを誘導する.HDCの誘導は肥満細胞欠損マウスでも起こる.このように,ヒスタミンの供給には肥満細胞・好塩基球が関与しない機構も存在する.この新しいヒスタミン供給機構は,サイトカインネットワークと連動したHDC誘導を介する機構である.この機構で産生されるヒスタミンを筆者らは“ネオヒスタミン”と呼ぶ.ネオヒスタミンは生理的反応,炎症・免疫反応および種々の病態に関与する.
キーワード: ヒスタミン,ネオヒスタミン,ヒスチジンデカルボキシラーゼ,サイトカイン,炎症
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