日薬理誌 118 (1), 43-49 (2001)


ヒスタミンH受容体mRNAを発現する一次知覚ニューロン

樫葉  均1),仙波恵美子2)

1)関西鍼灸短期大学生理学教室
〒590‐0433 大阪府泉南郡熊取町若葉2‐11‐1
2)和歌山県立医科大学第二解剖学教室
〒640‐0012 和歌山市紀三井寺811‐1



要約: 一次知覚ニューロンにおけるヒスタミンH受容体の存在が,薬理学的手法により示唆されてきた.最近,我々はモルモットの知覚神経節細胞において,H受容体遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーション法により検索し,更に,H受容体遺伝子が発現しているニューロンの特徴について検討を加えた.H受容体mRNAは三叉神経節や後根神経節(DRG)の15‐20%のニューロンに発現していたが,迷走神経・下神経節のニューロン(内臓求心性神経)には発現していなかった.H受容体を発現するDRGニューロンは,小型(small size)で無髄線維を有するが,痛覚の伝達に関与すると考えられているサブスタンスP(SP)やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を含有しなかった.更に,これらのニューロンはカプサイシン(その受容体は侵害性の熱刺激を受容する)に対する感受性も示さなかった.よって,H受容体を発現するニューロンは無髄線維を有する小型のDRGニューロンの中で特異なサブグループを形成していると思われる.一方,モルモットの坐骨神経を障害すると,多くのDRGニューロン(55%)にH受容体mRNAが発現し,これらもまた小型ニューロンであった.SP/CGRP陽性ニューロンの大部分もまたH受容体遺伝子を発現するようになった.一方,正常時にH受容体mRNAを強く発現していたニューロンでは,その遺伝子発現が低下した.つまり,末梢神経が障害されると,ヒスタミンに感受性を示していたニューロンがその感受性を失い,障害されたニューロンのあるグループはヒスタミン感受性を獲得すると考えられる.この新たなH受容体の遺伝子発現は,ニューロパシックペインの発症や維持に関与しているのかもしれない.

キーワード: H受容体,一次知覚ニューロン,神経ペプチド,カプサイシン,末梢神経障害

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