日薬理誌 120 (2), 107-113 (2002)


脳保護薬の開発状況

廣内 雅明,鵜飼洋司郎

日本新薬株式会社 創薬研究所
〒601‐8550 京都市南区吉祥院西ノ庄門口町141
e‐mail: m.hirouchi@po.nippon‐shinyaku.co.jp


要約: 虚血性脳梗塞急性期における内科的治療は,脳血流量を確保するため血栓溶解薬,抗トロンビン薬および抗血小板薬を用いた血栓溶解療法を中心として行われてきた.昨年,本邦にてエダラボンが脳保護薬として登場したことから,血栓溶解療法と脳保護療法との組み合わせが可能となってきている.発症早期からの脳保護薬の使用は神経細胞の保護に寄与し,致死回避あるいは梗塞抑制による神経症候,精神症状などの改善効果が高まることが期待されている.この事は,脳循環の改善しか治療上の要点が置かれていなかったところに,神経保護という観点からも注目されてきていることを意味している.事実,エダラボンの臨床現場での使用例が急速に拡大しており,この分野の治療薬に対する要求性が高いのは明らかである.一方,以前より神経保護を目的にした治療薬の臨床試験で有効性が証明されず,開発を断念してきた例が多いのも現状である.しかしながら,神経科学的に脳虚血性の神経障害の発生機構が解明されつつあり,また臨床面からも他の疾患と異なる要因に注意する必要も理解されてきている.すなわち,発症後からの治療可能な時間範囲(therapeutic time window)が存在し,脳血管が閉塞されてから梗塞が完成するまでの間に治療を開始する必要があるということである.現在でもそれぞれ作用機序の異なる戦略で前臨床段階を含め,多くの化合物が開発中であり,臨床での診断技術の進歩,医療体制の充実を含め,最新の情報をもとにした研究の更なる進展が期待されるところである.


キーワード: 脳虚血,治療可能時間,脳保護薬,ラジカルスカベンジャー,Na/Ca2+チャネル阻害薬

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