日薬理誌 114 (3), 141-148 (1999)


実験潰瘍と胃液分泌の薬理の新しい展望

渡辺 和夫

千葉大学薬学部薬効・安全性学講座
〒263-8522
千葉市稲毛区弥生町1-33


要約: 消化器薬理の将来展望について,実験胃潰瘍並びに胃液分泌に関する著者らの研究の観点から考察した.著者らは薬物による中枢性迷走神経刺激下に粘膜壊死性物質または抗炎症薬を併用することによってラットの胃幽門洞に限局した穿孔性の巨大な胃潰瘍を作成する方法をいくつか確立した.また,Helicobacter pilori. の潰瘍病原性との関連で試みたアンモニアの併用もこの潰瘍の発生に寄与した.この潰瘍モデルにおいて幽門部胃粘膜が迷走神経の興奮下または絶食後の再摂食条件で,粘膜侵襲に対して感受性が高まること,粘膜の一次求心性神経が胃粘膜防御系の統合機能に重要な役割を持っていることを示した.多くの実験潰瘍のうちでも本幽門洞潰瘍は,発生部位並びに病理特性の点でヒトの胃潰瘍と類似点があることから将来の研究に役立つことが期待される.また,著者らはラットの摘出胃粘膜及びマウスの摘出全胃標本の酸分泌測定法と麻酔ラットの胃内灌流法による胃酸分泌の連続自動記録法を確立した.これらの方法によって迷走神経から壁細胞に至る刺激情報伝達経路の解析を行った.特に,その経路のうちエンテロクロマフィン様細胞を介する経路の役割を明確化することができた.麻酔ラットを用いた胃酸分泌の中枢性調節機構の研究では,中枢GABA,バルビツレート,グルタメート,ニューロステロイド,およびオピオイドなどの受容体系の重要な役割を解析した.これらの研究成果と関連して,今後の研究目標として残されているいくつかの重要課題に言及した.

キーワード: 消化器薬理,実験胃潰瘍,胃酸分泌,中枢神経系,エンテロクロマフィン様細胞

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