日薬理誌 114 (3), 161-168 (1999)


新現Na+/Ca2+交換機構阻害薬KB・R7943の心筋虚血・再潅流障害に対する作用

大森 京子(1),稲垣千代子 (1),笹 征史 (2)

(1)関西医科大学薬理学教室
〒570-8506 守口市文園町10-15
(2)広島大学医学部薬理学教室
〒734-8506 広島市南区霞1-2-3

要約: 難治性てんかんの治療薬の開発には,てんかん原性の発現に関わる基本的な病態生理を把握し,これを標的とした薬物を考案することが必要とされる.本総説では,こうした薬物開発の標的としての,てんかん原性の発現・発達を担う分子レベルの変化に焦点をあて,概説する.c‐fosをはじめとする最初期遺伝子およびこれに続くnerve growth factor(NGF)やbrain‐derived neurotrophic factor(BDNF)の発現は,一過性の神経興奮を長期的な神経可塑性の変化へと発展させる分子機構のカスケードの初期の現象として重要であることが証明された.Srcファミリーに属する非受容体型チロシンキナーゼFynは,NMDA受容体のサブユニットNR2Bのチロシンリン酸化を介してキンドリング発達を促進すると推察された.抑制系の異常としては,ヒト側頭葉てんかん脳のてんかん原性海馬におけるグルタミン酸依存性のGABA遊離の低下が観察され,GABA transporterの減少によるものと考えられた.興奮系の異常として,てんかん原性海馬において,けいれん発作に先立つグルタミン酸の遊離増加,NMDA グルタミン酸受容体の反応性の増加,AMPA受容体の発現増加が認められ,特にAMPA受容体刺激がキンドリング成立後のけいれんに強く関わっていることが示された.ヒト家族性てんかん遺伝子の解析から,K+チャネルの遺伝子KCNQ2,KCNQ3,ニコチン受容体alpha4サブユニットの遺伝子CHRNA4,シスタチンBの遺伝子などの異常や変異が見いだされている.また,てんかんモデルマウスとして知られるElマウスにおいては,複数の遺伝子の変異が発作に関与し,そのうちのひとつEl‐1はCeruloplasmin遺伝子の異常を含む.SER(spontaneous epileptic rat: Zi/Zi, tm/tm)のてんかん形質を担う2つの原因遺伝子Zi,tm遺伝子のうちtm遺伝子にaspartoacylase遺伝子を含む広範な欠失が認められた.この結果脳内で増加するN‐acetyl‐L‐aspartate(NAA)がけいれん発作誘発に関与すると考えられた.

キーワード: てんかん原性, 分子機構, キンドリング, てんかんモデル動物, てんかん遺伝子

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