真崎 知生 教授(東京女子医科大学特認教授,筑波大学名誉教授,京都大学名誉教授 ) 血管平滑筋・内皮細胞の分子薬理学的解析-エンドセリンと酸化LDL受容体の発見
受賞講演:2008年3月第81回年会
真崎 知⽣
(東京⼥⼦医科⼤学 国際統合医科学インスティテュート)

この度第⼀回江橋節郎賞の受賞の栄誉に浴しました.私にとってはこの上ない名誉であります.⽇本薬理学会理事⻑をはじめ会員の皆様⽅,関係者の⽅々に篤く御礼申し上げます.
私が現役を退いてからもう 10 年にもなります.したがって今回の受賞は現役で活発に活躍をしている研究者への賞というより,昔の話題を思い出していただいた受賞という気恥ずかしさがあります.しかし,活気に満ちた当時の研究室の⽇々を思い出すと感無量です.私は東京都臨床研,筑波⼤学,京都⼤学と移り,それぞれ研究室を持つことができましたが,それぞれの研究室,特に 16 年間も過ごさせていただいた筑波⼤学は極めて優れた研究者の集団でありました.いずれもその中⼼に私がいられたのは幸いでした.先⽇,今回の受賞を祝い,主として三つの昔の私の研究室の⼈々が集まりました.皆こぞ ってこの受賞を喜んでくれました.このことは私にとって⼤変嬉しいことでした.
昨今の薬理学の展開は基礎的には現代⽣命科学とくにその⽅法論による進歩,もうひとつはクラシックな実験薬理学から創薬科学への視点の移動です.今回の受賞ではこのふたつの点,とくに前者の観点でわれわれのグループの薬理学への貢献が認められたものと思っております.
私は江橋先⽣の直弟⼦であります.江橋先⽣の研究室で筋蛋⽩質の研究からスタートし,以後いくつかの仕事を進める中で覚えた分⼦⽣物学や細胞⽣物学的⼿法を,薬理学の進歩に役⽴てたいと思っておりました.その後,平滑筋の研究から⾎管研究へと進み,⾎管内⽪細胞が分泌する強⼒な⾎管収縮ペプチド,エンドセリンの発⾒に⾄りました.このペプチドは当時知られていたどの⾎管収縮物質よりも強⼒でありました.この発⾒は世界中の研究者の注⽬を集め,世界各地で爆発的にエンドセリン研究が始まりました.私たちの研究室では,引き続き 3 種のエンドセリン分⼦種の存在,これらの分⼦種に対応するエンドセリン受容体の発⾒などを⾏い,エンドセリン研究をリードしてきました.⼀⽅,いくつかの製薬企業はエンドセリン受容体拮抗薬の開発を進めました.その後このエンドセリンは⾎管ばかりでなく,全⾝の臓器にそれぞれのレベルで発現しており様々な⽣理活性を⽰していること分かってきました.特に肺⾼⾎圧症などでは病態⽣理に重要な働きをしていると考えられており,開発されたエンドセリン受容体拮抗薬の中には実際に臨床で治療薬として⽤いられているものがあります.この爆発的に起こったエンドセリン研究は同じ頃に起こった内⽪由来の⼀酸化窒素の研究と共に内⽪の研究という新しい学問領域を形成することになりました.
さらに我々は内⽪研究を進める中から内⽪由来酸化 LDL 受容体をクローニングすることができました.マクロファージに発現する酸化 LDL 受容体は動脈硬化症におけるマクロファージの泡沫化にとって重要であることが分かっています.⼀⽅内⽪細胞に発現する酸化 LDL 受容体には不明の点が多かったのですが,従来発表されていたマクロファージの受容体とは異なるものであることがわかり LOX-1と名づけました.この受容体は粥状動脈硬化腫を含む,多くの炎症性疾患の病態形成に重要な役割を演じていると考えられています.
これらエンドセリンや LOX-1 はその後多くの研究者によって研究され,いろいろな事実がわかってきました.いずれも臨床の疾患の診断と治療に応⽤するという視点からも研究されています.その後の研究の発展が期待されます.