金丸 和典(東京大学大学院医学系研究科細胞分子薬理学講座)
カルシウムイメージングで切り拓くアストロサイト機能
佐々木拓哉(東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室)
脳細胞ネットワークの機能動態とその破綻機構の解明
塩田 倫史(岐阜薬科大学生体機能解析学大講座分子生物学研究室)
ドパミンD2 受容体を介した細胞内シグナル伝達機構の解明
学術奨励賞は本会会員で薬理学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し,将来発展の期待される研究者に対して授与されます.
第 32 回は 3 名が選考されました.受賞者には第 90 回年会において,賞状および副賞が授与されます.
(東京大学大学院 医学系研究科 細胞分子薬理学教室)

受賞対象研究テーマ
テーマの紹介・今後の展開:
グリア細胞の一種であるアストロサイトの脳機能・病態への貢献が明ら かになりつつあるが,未だ不明な点も多い.
アストロサイトの活動性を観測可能な Ca2+イメージ ングを駆使した解析から,アストロサイト Ca2+シグナルが細胞間接着因子 N-カドヘリンの発現制 御を介して神経成長および脳損傷時の神経保護に寄与することを明らかにしてきた.
また,生体内 Ca2+イメージン グに適した遺伝子改変マウスを開発し,生きたマウス個体内で起こるアストロサイト新規 Ca2+シグナルを見出すこ とに成功した.
これらの解析から得た幅広い知見やツールを活かし,脳病態に重要なアストロサイト由来分子やパス ウェイをさらに同定し,また,生体内アストロサイトの機能を解明することで,薬理学の発展に貢献できるよう努力していきたい.
(東京大学大学院 薬学系研究科 薬品作用学教室)

受賞対象研究テーマ
テーマの紹介・今後の展開:
これまでに私は,国内外の 5 つの研究機関を経験する中で,様々な電気 生理学および光生理学的な実験アプローチを融合させ,ニューロンとグリア細胞からなる脳細胞 ネットワークが,いかなる挙動を示し,また動物の行動表現型を形成するか解析してきた.
特に心 掛けてきたのは,新しい研究アイデアを思いついたときに,それを検証する最適な方法論を構築するという研究手順 である.実際に私の発表論文は半数が方法論に関する論文である.
近年の生命科学研究では,オミクス解析や,生命 の多様性を考慮した研究の重要性が増しているが,そのような時代だからこそ,信念無き情報洪水に惑わされずに, Idea-driven 型の研究戦略を大切にしたいと考えている.
今後の私の研究キーワードは,中枢末梢連関,網羅的計測, そして個性の機序である.複雑な相互作用から生成する多変量データから目を背けず,愚直かつ地道に生命システム の探究に挑戦していきたい.
(岐阜薬科大学 生体機能解析学大講座 分子生物学研究室)

受賞対象研究テーマ
テーマの紹介・今後の展開:
ドパミンは感情・意欲・運動・学習などに関わる重要な脳の伝達物質で ある.ドパミン受容体の中で,ドパミン D2 受容体は統合失調症,注意欠陥多動性障害(ADHD) やパーキンソン病などの様々な精神疾患に対する治療薬の標的になっている.
私は,これまでドパ ミン D2受容体に着目し,その新しい細胞内シグナルについて明らかにしてきた.特に,脳神経に発現する脂肪酸結 合蛋白質 FABP3 がドパミン D2 受容体の機能調節を行うこと,FABP3 はパーキンソン病の原因であるシヌクレイノ パチーの発症に関与することを明らかにした.
さらに,ドパミン D2受容体の神経細胞内におけるこれまでに報告の ないシグナル伝達系を見出した.
ドパミン D2 受容体には D2L 受容体と D2S 受容体の 2 種類の構造の異なる受容体 が存在するが,D2L 受容体が細胞膜表面だけでなく,細胞内小器官(初期エンドソームとゴルジ装置)にも局在し, 細胞内 D2L 受容体の活性化により抗精神病薬による精神安定作用と運動機能制御作用を増大することを明らかにした.
今後,細胞内 D2L 受容体活性化作用を目指した精神疾患の新規治療薬の開発を目指す.