成宮 周 教授(京都大学大学院医学研究科 神経・細胞薬理学分野)
プロスタグランジン受容体と低分子量G蛋白質Rhoの研究
受賞講演:2012年3月 第85回年会
成宮 周
京都⼤学⼤学院医学研究科神経・細胞薬理学

今回,世界の⽣命科学の⼤先達である江橋先⽣のお名前を冠した賞を受賞させて頂き,たいへん光栄に感じて おります.江橋先⽣には⽣前何度かお⽬にかかりましたが,先⽣が来られるといつでも周囲が明るく活気づい たのを思い出します.研究は,⼈,モノ,アイディアとの出会いだと思います.この⼩⽂では,今回の受賞の 対象となった私の研究「プロスタグランジン受容体と低分⼦量 G タンパク質 Rho の研究」での出会いを綴っ てみようと思います.
私は,⼤学院は早⽯修先⽣の京都⼤学医化学教室で核酸,タンパク質,脂質などの取り扱いを学びました.早 ⽯研での出会いはモノとの出会いでした.⼤学院修了後,英国の Wellcome 研究所の Sir John Vane のもとに 留学しました.John Vane は⾔うまでもなく蛇毒のキニン活性化機構の解析から ACE 阻害薬の開発に関わり, アスピリンの作⽤機構を解明し,プロスタサイクリン( prostacyclin)を⾒出すなど,様々な発⾒を成し遂げま したが,私の興味は彼がどうして次々と⼤発⾒を⾏えたかにありました.そこで学んだことは,彼の発⾒が既 知の⽣理活性物質を阻害薬でブロックした上で様々な平滑筋のバイオアッセイ( bioassay)で新規活性を探索 することにあること,薬理学とは薬物を⽤いて⽣体をディセクト(dissect)し,そこで働いているメカニズ ム,分⼦,概念を明らかにし,それに対して新規薬物を創成して,次の解析に向かうというダイナミック ( dynamic)な学問だということでした.これが薬理学,薬理学的⼿法との出会いでした.
留学後,早⽯研に戻りましたが,早⽯先⽣が退官されたあと,私が興味をもったのがトロンボキサン A2 (TXA2)の作⽤機構です.
TXA2 は極めて不安定でありながら,強い⾎⼩板活性化作⽤を有し⾎栓症の原因 物質と⾔われていました.そのことから,⽇本でも TXA2 アンタゴニストの開発研究が⾏われていました.私 は,⼤学院⽣の⽜⾸⽂隆くん(現,旭川医⼤教授)と⼀緒に,それらをリガンドとして⽤い結合タンパク質を ヒト⾎⼩板より精製,精製タンパク質の部分アミノ酸配列をもとにクローニングしました.その結果,この分 ⼦が TXA2 受容体そのものであることが明らかになりました.ついで,京⼤薬学部の市川厚教授と杉本幸彦く ん(現在,熊本⼤学薬学研究科教授)らと⼀緒にその他の PG に対する 7 つの受容体のクローニングを⾏いま した.幸い, TXA2 受容体のクローニングは PG 受容体研究に⼤きなインパクトを与え,それまで年間数⼗報であったこの分野の論⽂数が,発表年から数百に増え,現在では年間 900 前後で推移しています.その間,私 たちは,⼩野薬品と共同で受容体タイプ・サブタイプ特異的なアゴニスト/アンタゴニストの開発を⾏うとと もに,8 種の受容体各々の遺伝⼦⽋損マウスを作出し,これらを⽤いて各受容体の⽣理,病態⽣理での役割を明 らかにしてきました.この中には PG の慢性炎症での働きやストレス⾏動制御など PG の新しい役割もありま す.
私たちのもう⼀つの研究が低分⼦量 G タンパク質 Rho の研究です.これは,早⽯研でのジフテリア毒素によ るタンパク質伸張因⼦の ADP リボシル化の発⾒が端緒になっています.その後,コレラ毒素による Gs の ADP リボシル化,百⽇咳毒素による Gi の ADP リボシル化の発⾒が続き,ADP リボシル化毒素を⽤いた⽣体 機能の解析の有⽤性が⽰されていました.私は,当時奈良医⼤の助⼿であった⼤橋康広くんと⼀緒にボツリヌ ス菌ろ液をスクリーニングし,分⼦量 21 K のタンパク質を ADP リボシル化する新規酵素を⾒つけました.こ れが現在 C3 酵素として知られているものです.ついで,研究員の森井成⼈くんが基質タンパク質を精製し, これが Rho という低分⼦量 G タンパク質であることが分かりました.これらの研究が基となり Rho がストレ スファイバーなどアクチン細胞⾻格の制御を⾏っていることが明らかとなりました.私たちはついで,Rho の 下流で働くいくつかのエフェクター分⼦を単離しました.その中には,⽯崎敏理くん(現,教室准教授)が同 定した ROCK,渡邊直樹くん(現,東北⼤学教授)が同定した mDia があります.その後の解析から, Rho の下流で mDia が単量体アクチンを重合しアクチン線維を作ること,こうしてできたアクチン線維を ROCK がミオシンを活性化してアクトミオシンに束ねることが明らかになりました.また,mDia や ROCK が個体で 様々な働きをしていることも明らかになりました.とくに ROCK の個体機能の解明には旧吉富製薬の上畑雅義 さんと⾏った ROCK 特異的阻害薬 Y-27632 の発⾒が⼤きな寄与をなしています.江橋先⽣は, Albert Szent- Gyorgi の“Chemistry of Muscle Contraction”という名著を読まれて,筋収縮研究を志され,筋収縮におけるカル シウムの役割という⼤発⾒をされました.Szent-Gyorgyi は,アクチン(actin)の発⾒者で命名者でもありま す.この意味で,私の Rho 研究がこれら⼤先達の研究に繋がるものであることをうれしく思っています.
私の 2 つの研究は,極めて多数の共同研究者によってなされたものであり,最後にすべての共同研究者に謝意 を表して稿を終えたいと思います.
(Shuh Narumiya)
