金井 好克 教授(大阪大学大学院医学系研究科 生体システム薬理)
トランスポーターの分子実体の解明と分子標的創薬への応用
受賞講演:2014年3月 第87回年会
⾦井 好克
⼤阪⼤学⼤学院医学系研究科 ⽣体システム薬理学

このたびは江橋節郎賞受賞の栄誉を賜り,誠に光栄に存じます.このような⾝に余る賞をいただき,感謝の念に堪えません.
トランスポーターの研究は,20 世紀の初頭に⽣体内の物質の動きの現象論から始まり,その後の⽣理 学,⽣化学の⻑い研究の蓄積により,1970 年代には物質基盤に基づくトランスポーターの概念が確⽴ されました.cDNA クローニングによりトランスポーターの分⼦の実体が明らかにされていくのは, 1980 年代の中頃からとなりますが,1990 年代に⼊ると分⼦クローニング技術の汎⽤化にともない,15 年ほど続くクローニングラッシュが始まります.これは,新しい分⼦をみつけること⾃体に⼤きな価値 が認められた時代であり,1 世紀に及ぶこの分野の成果を摘み取ることで,個⼈が投⼊した労⼒以上に ⼤きな成果を得られる時代でもありました.
私は,ちょうどその頃この分野に⼊り,アミノ酸,糖,有機酸等のトランスポーターの分⼦同定に携わ り,発現クローニングによって新しいファミリーを探していく巡り合わせとなりました.トランスポー ターの発現クローニングも初期の頃は扱いやすいものを対象としていましたが,そのうち困難な課題が 残され,アミノ酸トランスポーターにおいては,1 回膜貫通型タンパク質とジスルフィド結合を介して ヘテロ⼆量体を形成することで機能するヘテロ⼆量体型トランスポーターを⾒いだし,遅れていたアミ ノ酸トランスポーターの分⼦実体解明を加速することができました.新しい化合物を合成したことでそ の作⽤を指標にみつかった新しいファミリーや,ゲノム概要配列情報をもとにin silico のポジショナル クローニングで⾒つかったものや,メタボロミクスで機能を特定したものなど,その時代時代で使い得 る技術と素材を動員して,様々なトランスポーター分⼦に出会えることができたと思っています.
トランスポーターは,⽣体膜上に存在することで,⽣体内の各区画の物質分布の決定に寄与しています ので,薬物によってその活性を制御することにより,体内の物質分布を変更することができます.特 に,腎尿細管の無機イオンや有機化合物の再吸収や分泌を担うトランスポーターに作⽤する薬物は,病 態に伴って異常となった恒常性を正常に戻すために使⽤する治療薬となり得ます.例えば利尿薬や尿酸 排泄薬がこれに当たります.さらに,1994 年に分⼦同定した尿細管のグルコース再吸収を担うSGLT2 の阻害薬が,再吸収を抑えることで⾎糖値を下げる新たな作⽤機序の糖尿病治療薬として完成しまし た.これと同じアイデアで,分⼦実体の明らかにされた様々な尿細管トランスポーターを標的として, 新たな創薬が可能となるものと期待されます.また,トランスポーターを標的とした創薬としては,例 えば腫瘍細胞のような病態形成を担う細胞の活性を維持するトランスポーターも標的となり得ます.こ の観点から,現在悪性腫瘍のアミノ酸トランスポーターの阻害薬の研究を進めています.
最後に,ご指導いただきました先⽣⽅と⻑年苦労をともにしてきた共同研究者の⽅々にこの場を借りて お礼を述べさせていただきますとともに,酵素,受容体,イオンチャネルに続き,トランスポーターの 創薬標的としての意義が⾼まってきているこの時期に,トランスポーター研究に栄誉ある賞を賜りまし たことに⼼より感謝申し上げます.
(Yoshikatsu Kanai)
