石井 優 教授(大阪大学大学院医学系研究科)
生命動態イメージング技術の開発と免疫・炎症ダイナミクスの解明
受賞講演:2019年3月第92回年会
日薬理誌 154,1(2019) ©日本薬理学会
石井 優
大阪大学大学院 医学系研究科 免疫細胞生物学教室

この度は,第12 回江橋節郎賞の栄誉を賜り,また第92 回日本薬理学会年会にて受賞講演の機会を頂き,大変 光栄に存じます.日本薬理学会にて目立った活動実績のない私のような若輩者が,このような学会で最も権威あ る賞を本当に頂いてよいものか未だ戸惑いはございますが,今後本会にご恩返しすべく,精進を重ねていきたい と決意を新たにしております.
大阪大学医学部の学生時代に薬理学教室の倉智嘉久教授(当時)の研究室に出入りしたのが,私と薬理学との 出会いでした.シングルチャネルレコーディングで1 個のイオンチャネルが開閉する様子(厳密にはそれによる 電流の変化)を初めて見たときは,本当に感動したことを覚えております.様々な薬剤を加えるとその開閉が人 為的に調節することができ,薬理作用を目で見ることの面白さを実感しました.その後,医学部を卒業して免疫 内科医として研修を受けた後は,再び倉智先生の研究室でお世話になり,心筋や神経などの興奮性膜をもった細 胞の電気生理やそのシグナル伝達による制御機構について研究を進めました.これら薬理学教室の仕事で学位を 頂いた後は,免疫内科医の臨床に戻りましたが,薬理学教室で学んだ研究手法やコンセプトを積極的に取り入れ ようと努力しました.臨床では関節リウマチの患者さんを診る機会が多く,炎症でどのようにして骨が破壊され るのかに興味を持ち,破骨細胞の研究を始めましたが,培養系や固定組織の解析に限界を感じました.実際に,破 骨細胞の骨破壊の現場を「見たい」と考え,紆余曲折の末,多光子励起顕微鏡を用いて生きた骨組織内のイメー ジング系を立ち上げることができました.この成功の原動力となったのは,以前にイオンチャネルが開閉する様 子を見たときに感動があったことは間違いありません.その後,この研究は私自身の想定以上に発展し,骨組織 内に留まらず,免疫・炎症における多種多様な細胞の動きの精緻な制御機構を解析することができました.また, この独自の生命動態イメージング技術は,生物学的な基本コンセプトの解明のみならず,様々な薬剤の真の作用 機序「in vivo 薬理作用」を解く重要な手段としても重要性が増してきております.この絶妙のタイミングで,本 会でこのような最高の形で私の研究を紹介させて頂くことができたことに感激に堪えません.
現在私は,大阪大学医学系研究科にて基礎免疫学を担当しておりますが,私自身はこれまで一貫して免疫学分 野で教育を受けてきたという訳ではありません.むしろ,研究者として初期段階では,薬理学・生理学の観点か らの教育を色濃く受け,その後,免疫・リウマチ内科医として臨床・研究を経験し,本格的な基礎免疫学の教育 は米国留学中に受けました.このように私は,「一貫して」というのとは対極のキャリアを経ていますが,そうで あるからこそいまの自分の研究があるように思います.私が大学卒業後の頃の免疫学は,新規の分子や細胞を探しあて,クローニングし,ノックアウトするといった,
生命現象を分子に帰結させようとする要素還元的なア プローチが全盛でした.その中で私は,生命現象を物 質と生体の相互作用として捉えていきその動態を解明 していく薬理学の研究手法を学べたことは非常に意義 深く,これを免疫学へと広げることで自身のサイエン スを拓くことができたと思っております.学際的な研 究の重要性を私自身の体験として身をもって実感して います.
既述の通り,私自身はこれまで薬理学会で主要な活 動をしてきた訳ではありません.でもだからこそ,別 の分野に身を置いていたからこそ,薬理学会に対して もできる貢献がきっとあるように感じます.特に数年 前に,国際薬理学連合(IUPHAR)の「免疫薬理セク ション」が立ち上がり,日本からのExecutive Board Member として私がご指名を受けております.いまは 免疫関連の薬物をリストアップするくらいのことしかしておりませんが,今後この分野を発展させるためにセク ション全体で知恵を絞っていくことになりますが,私としましては,自身のバックグラウンドを活かして,日本 のサイエンスの強みをアピールできる日本発の“免疫薬理学”を創生していきたいと思っております.どうか,日 本薬理学会の諸先生方からご指導を頂ければ幸甚に存じます.
最後になりますが,これまでご指導を頂きました数多くの先生方,共同研究者の先生方にこの場をお借りして 深くお礼申し上げます.繰り返しになりますが,これから日本薬理学会の発展に貢献できるべく努力して参りた いと思っております.この度は本当にありがとうございました.
(Masaru Ishii)
