学術奨励賞

第35回学術奨励賞(2020年3月)

北岡 志保(神戸大学大学院 医学研究科 薬理学分野)
精神・神経変性疾患の病態形成に関与する脳内炎症および疾患モデル細胞を用いた創薬に関する研究

出山 諭司(金沢大学 医薬保健研究域薬学系 薬理学研究室)
レゾルビン類の抗うつ作用の機序解明と創薬応用に向けた薬理学的研究

中村 達朗(東京大学大学院 農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室)
食物アレルギーにおけるPGD2の役割解明と治療、診断への応用

第35回学術奨励賞受賞者プロフィール

学術奨励賞は本会会員で薬理学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し,将来発展の期待される研究者に対して授与されます.

第 35 回は 3 名が選考されました.

北岡 志保(きたおか しほ)

(神戸大学大学院 医学研究科 薬理学分野)

きたおか しほ

受賞対象研究テーマ

『精神・神経変性疾患の病態形成に関与する脳内炎症および疾患モデル細胞を用いた創薬 に関する研究』

 テーマの紹介・今後の展開:

私は精神・神経変性疾患の病態形成における炎症の役割に興味をもち, 研究を進めてきました.その中で,炎症が神経機能を変化させることや疾患に関与する炎症の分子実体を明らかにしました.

さらに,炎症を標的とした創薬プラットフォームの可能性も示し, 従来よりも幅広い精神・神経疾患における脳内炎症の意義の発見に繋がりました.

これまでは,慢性ストレスが誘導 する脳内炎症に注目していましたが,慢性ストレスは脳以外でも組織恒常性の破綻を誘導します.最近では,慢性ス トレスが末梢で血球細胞の分化・動員を変化し,血中に動員された血球細胞が末梢組織や脳実質に浸潤することを見 出しています.

この結果は,精神・神経疾患における全身性の炎症反応の関与の可能性を示しています.今後は,脳 内や末梢臓器の炎症を標的とした精神・神経疾患の細胞モデルを具現化し,炎症が深く関わる精神・神経疾患の治療 薬を開発したいと考えています.

出山 諭司(でやま さとし)

(金沢大学 医薬保健研究域薬学系 薬理学研究室)

でやま さとし

受賞対象研究テーマ

『レゾルビン類の抗うつ作用の機序解明と創薬応用に向けた薬理学的研究』

テーマの紹介・今後の展開:

NMDA 受容体拮抗薬ケタミンが,治療抵抗性うつ病患者に即効性の抗うつ作用を示すことから近年注目を集めているが,依存性や統合失調症様症状の惹起などの副作用のため,ケタミン自体の抗うつ薬としての使用には大きな制約がある.そのため,より副作用の少ない新たな即効性抗うつ薬の開発が求められている.

私は,ドコサヘキサエン酸,エイコサペ ンタエン酸の活性代謝物であるレゾルビン類に着目し,レゾルビン類がケタミンと類似の機序(mTORC1 経路活性 化)を介して抗うつ作用を示すことを見出した.

レゾルビン類は,恒常性維持に関与する内因性脂質メディエーター であることから,ケタミンより安全性面で優れた新たな即効性抗うつ薬の創薬標的になると期待できる.

今後は,レ ゾルビン類の創薬応用に向けて,より詳細な作用機序の解析を進めるとともに,さらなる創薬標的の同定と,うつ病の病態形成・難治化の神経機構の解明を目指した研究を行っていきたい.

中村 達朗(なかむら たつろう)

(東京大学大学院 農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室)

なかむら たつろう

受賞対象研究テーマ

『食物アレルギーにおける PGD2の役割解明と治療,診断への応用』

テーマの紹介・今後の展開:

プロスタグランジン D2(PGD2)は,アレルギー反応を引き起こす主たる免疫細胞であるマスト細胞が大量に分泌する生理活性物質である.我々はこれまで,食物アレルギーの進行における PGD2 の役割解明を目的に研究を行い,PGD2 はアレルギー性炎症の進行を抑 制する因子であることを見出した.

さらに,マウスモデルおよび食物アレルギー患者の尿を用いた検討から,PGD2の尿中代謝産物が食物アレルギーの重症度を反映することも見出した.

今後は,アレルギーの発 症と進行における PGD2の役割をより詳細に解明していくとともに,食物アレルギー診療のアンメットニーズに応える新規診断法の開発を進めていきたいと考えている.

公益社団法人日本薬理学会