学術奨励賞

第37回学術奨励賞(2022年3月)

葛巻 直子(星薬科大学・薬理学研究室・准教授)
疾患iPS細胞分化誘導細胞の多次元的細胞特異的解析を応用した細胞特異的遺伝子改変疾患モデル動物による高感度リバーストランスレーショナル研究の確立

篠原 亮太(神戸大学大学院・医学研究科・講師)
神経回路の形成・可塑性のメカニズムと病態生理学的意義の解明

原田 龍一(東北大学大学院・医学系研究科・助教)
PETプローブを用いた神経病理画像化に関する研究

第37回学術奨励賞受賞者プロフィール

学術奨励賞は本会会員で薬理学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し,将来発展の期待される研究者に対して授与されます.

第 37 回は 3 名が選考されました.


葛巻 直⼦(くずまき なおこ)

(星薬科⼤学 薬理学研究室)

くずまき なおこ

受賞対象研究テーマ

『疾患 iPS 細胞分化誘導細胞の多次元的細胞特異的解析を応⽤した 細胞特異的遺伝⼦改変疾患モデル動物による⾼感度リバーストランスレーショナル研究の確⽴』

テーマの紹介・今後の展開:

難治性神経疾患は,様々な神経の複合的変容により発症し,時間軸に従って重症化すると考えられる.

我々は,こうした神経疾患難治化メカニズムを解明するために,ヒト iPS 細胞から細胞特異的疾患情報を抽出し,その情報を標的神経特異的遺伝⼦改変モデル動物の作製に応⽤することで,リバーストランスレーショナルニューロサイエンスリサーチを遂⾏した.

実際に,家族性パーキンソン病患者 iPS 細胞由来ドパミン神経細胞において,ダイナミックな DNA 脱メチル化を伴ったドパミン代謝酵素の発現増 加が引き起こされることを明らかにした.また,⿊質ドパミン神経細胞内において,抽出した病態発現候補因⼦の in vivo での過剰発現により,錐体外路障害が引き起こされることを確認した.

今後は,ヒト iPS 細胞からの情報を元 に,ヒト化疾患モデル動物解析を実践することで,難治性神経疾患の病態解明やテーラーメイド治療戦略を志向して いきたい.

篠原 亮太(しのはら りょうた)

(神⼾⼤学⼤学院 医学研究科 薬理学分野)

しのはら りょうた

受賞対象研究テーマ

『神経回路の形成・可塑性のメカニズムと病態⽣理学的意義の解明』

テーマの紹介・今後の展開:

神経回路の形成・可塑性には細胞⾻格の再編成による細胞形態変化が深く関わる.

私たちは神経回路の形成機序をアクチン制御因⼦に着⽬して解析し,抑制性神経細胞に 特異的な細胞移動様式のメカニズムを明らかにした.神経回路は発⽣初期には主に遺伝的プログ ラムによって形成されるが,⽣後は外的因⼦の影響を受けて再編成される.

私たちは外的因⼦として社会や環境から のストレスに着⽬し,慢性ストレスでは前頭前⽪質でドパミン−D1 受容体経路が減弱し,錐体ニューロンの樹状突起退縮とともにうつ・不安様⾏動が誘導される⼀⽅,急性ストレスではこのドパミン経路が活性化され,樹状突起の増⽣とストレス抵抗⼒(レジリエンス)の増強が誘導されることを⽰してきた.

今後は神経活動計測・操作や単⼀細 胞分⼦解析などを駆使してレジリエンスを担う神経回路とその発達機序を解明し,精神疾患の病態解明および発症リスクの予測や予防・治療法の開発に繋げたい.


原⽥ ⿓⼀(はらだ りゅういち)

(東北⼤学⼤学院 医学系研究科 機能薬理学分野)

はらだ りゅういち

受賞対象研究テーマ

『PET プローブを⽤いた神経病理像の画像化』

テーマの紹介・今後の展開:

陽電⼦断層撮影法(PET)ではプローブと呼ばれるポジトロンを放出する核種(F-18 など)で標識した放射性薬剤を⽤いる.私たちは死後脳(剖検)でしか確認すること ができなかった神経病理像を⽣前に可視化するための PET プローブの開発を進めてきた.

アルツ ハイマー病などの脳内で認めるタウ凝集体を標的とした薬剤[ 18F]THK-5351 を開発したが,臨床 PET 画像の妥当性の検証の結果,モノアミン酸化酵素 B(MAO-B)にも結合することを⾒出した.

MAO-B はグリア細胞の⼀種であるア ストロサイトに⾼発現しており,アストログリオーシスのバイオマーカーになる.[ 18F]THK-5351 は MAO-B だけで なくタウ凝集体への結合性も有しているため利⽤しづらい.

そこでタウプローブとしては“標的外”であった MAO-B を“標的”とみなし,その結合選択性を⾼める戦略により,新たな MAO-B PET プローブ[ 18F]SMBT-1 を開発するに⾄ り,現在臨床研究が進められている.

公益社団法人日本薬理学会