学術奨励賞

第40回学術奨励賞(2025年3月)

高露 雄太(九州大学・大学院薬学研究院・薬理学分野・准教授)
アストロサイト多様性意義の解明に関する研究

中村 庸輝(広島大学・大学院医系科学研究科(薬)・助教)
難治性疼痛病態の理解に基づく鎮痛薬開発を目指した薬理学研究

永井 裕崇(神戸大学・大学院医学系研究科・助教)
環境要因が組織恒常性の破綻を招く機序の解明

第40回学術奨励賞受賞者プロフィール

学術奨励賞は本会会員で薬理学の進歩に寄与する顕著な研究を発表し,将来発展の期待される研究者に対して授与されます.

第 40 回は 3 名が選考されました.

高露 雄太(こうろ ゆうた)

(九州大学 大学院薬学研究院 薬理学分野)

こうろ ゆうた

受賞対象研究テーマ

『 アストロサイト多様性意義の解明に関する研究 』

テーマの紹介・今後の展開

グリア細胞の一種であるアストロサイトは,中枢神経系全体に存在し,血液脳関門の形成や神経細胞の機能調節に重要な役割を担う.また,近年のオミクス解析や生体イメージング技術の進歩に伴い,アストロサイトは分子・機能的に多様な集団であることが明らかとなっている.

我々は,成体脊髄におけるアストロサイトの亜集団を同定し,末梢への侵害刺激時に,青斑核由来のノルアドレナリンシグナルを受容することで同細胞の活動性が亢進し,痛覚過敏を惹起することを示した.

これまで下行性のノルアドレナリンシグナルは疼痛抑制系としての働きが広く知られていたが,同細胞の発見に端を発し,疼痛促進系も存在することが明らかとなった.

今後も,アストロサイトの多様性が織りな す感覚制御機構について解析を行い,感覚異常を伴う慢性疾患のメカニズム解明および治療薬の開発を目指す.

永井 裕崇(ながい ひろたか)

(神戸大学 大学院医学研究科 薬理学分野)

ながい ひろたか

受賞対象研究テーマ

『 環境要因が組織恒常性の破綻を招く機序の解明 』

テーマの紹介・今後の展開:

ヒトは多様な環境要因に曝露され,その蓄積が生体恒常性の破綻や慢性疾患の発症に寄与するが,詳細は不明である.

我々はマウスのストレスモデルを用いることにより,ストレスが脾臓および骨髄で抗炎症性脂質メディエーターを減少させ免疫細胞の集団をリンパ球系から骨髄球系に偏移させること,そしてストレスレジリエンスが脳内の特定脂質代謝産物と関連することを明らかにした.

さらに前頭前皮質におけるストレスの影響を三次元電顕やマルチオミクス解析によって調べることで,ストレスがシナプスの糖代謝を変容させ神経細胞の機能構造変容,脳内炎症,うつ関連行動を招くことを見出しつつある.

これらの知見はストレスが中枢および末梢の代謝を変容させ炎症を介して認知情動変容を招くことを示唆する.代謝制御機構がストレスレジリエンスの個体差を担う可能性が示唆されており,今後は同機序を解明し,代謝操作によるレジリエンス賦活法の確立に繋げたい.

中村 庸輝(なかむら ようき)

(広島大学 大学院医系科学研究科 薬効解析科学)

なかむら ようき

受賞対象研究テーマ

『 難治性疼痛病態の理解に基づく鎮痛薬開発を目指した薬理学研究 』

テーマの紹介・今後の展開:

難治性疼痛は,既存の鎮痛薬では奏功せず,患者の生活の質を著しく低下させるため,社会経済へ大きな損失をもたらす.従って,これまでにない作用機序を有した新たな鎮痛薬の開発が喫緊の課題である.

我々は,細胞損傷・障害が難治性疼痛共通の病態基盤であることに着目し,各種疼痛モデル動物を用いた行動薬理学 的検討を重ねてきた.

その結果,損傷細胞から漏出するdamage-associated molecular patterns (DAMPs) の 中でも,high mobility group box-1 (HMGB1) が難治性疼痛病態を形成する重要な起点となることを見出し,新たな創薬標的分子である可 能性を示した.

今後は DAMPs から始まる本病態形成機構の詳細な神経・分子基盤を追求し,本研究成果に基づく新たな鎮痛薬の開発に 繋げたい.

公益社団法人日本薬理学会