日本薬理学雑誌 >
バックナンバー >
日薬理誌第127巻第3号
2006年3月
アゴラ
125
臨床薬理学と専門医
藤村昭夫
特 集 ●薬理学における痛み研究の新しい潮流●
127
序文:植田弘師
128
TRPチャネルと痛み
富永真琴
133
PAR-2と痛み
川畑篤史
137
神経ペプチドと痛み
井上敦子、仲田義啓
141
脊髄における一酸化窒素(NO)産生と痛み
伊藤誠二
147
痒みに関する脳機能イメージング研究の展開
望月秀紀、谷内一彦
151
種々の神経因性疼痛モデル
佐々木 淳、倉石 泰
156
Caチャネルと痛み伝達
田邊 勉
161
傷害性神経因性疼痛誘発を担うリゾホスファチジン酸
植田弘師
166
ATPと痛み
井上和秀
171
がんと痛み -臨床の立場から-
冨安志郎
176
日本における慢性疼痛保有率
服部政治
実験技術
183
タバコ煙を用いた慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬効評価モデル
渕上淳一、高橋真樹
治療薬シリーズ(1)うつ病
190
オーファンGPCRとうつ病
斎藤祐見子、Zhiwei Wang、丸山 敬
196
神経ペプチド受容体:抗うつ薬創出の新しいターゲット
茶木茂之、奥山 茂
201
うつ病と脳由来神経栄養因子(BDNF)
橋本謙二
205
うつ病治療薬の開発状況
市丸保幸、青木真由美、島 由季子
209
うつ病治療の現場から:治療薬の問題点と望まれること
白山幸彦
総 説
213
医薬品開発における物性評価の重要性
芦澤一英
217
新薬の創出に重要な創薬初期段階での安全性、薬物動態および物性試験
堀井郁夫
新薬紹介総説
223
新規α-グルコシダーゼ阻害薬ミグリトール(セイブルR 錠)の薬物動態学的および薬理学的特徴と臨床試験成績
久保山 昇、林 一郎、山口忠志
■展望シリーズ 四方山ばなし(6)
233
テーラーメイド医療の実現を目指して
伊藤継孝、東 純一
くすりの来た道(最終回)
238
アインシュタインの予言
岡部 進
リレーエッセイ vox nova
240
MD-PhDコースを歩み、考えていること
前田 恵
241
薬理学―生き物のデジタルとアナログをつなぐもの―
名黒 功
コレスポンデンス
243
医療費削減に思う
南 勝
お知らせ
19A 学術奨励賞受賞者プロフィール
20A JPS論文賞受賞論文プロフィール
21A 事務局NEWS
22-23A Calendar
24A 募集・集会案内
165頁 次号予告
175頁 複写規定、他
181頁 JPS 100:2 目次
189頁 安全性情報No.221
204頁 E-journalアクセス集計
222頁 執筆の手引き
244頁 JPSデータ
広告第1頁 編集後記
著者プロフィール
146、160、165、175、180、189
|
●特 集 |
痛みの科学●
急性痛とその分子機構が異なる慢性疼痛は難治性と言われている。本特集では癒されない痛みの治療法を求めてその分子メカニズムや治療標的探索研究についての新しい視点と研究戦略について、最新の研究成果を報告する。
(植田弘師 「薬理学における痛み研究の新しい潮流」序文 p.127) |
|
◆ |
TRPチャネルと痛み
カプサイシン受容体TRPV1はカプサイシン、熱、プロトンといった侵害刺激によって活性化される陽イオンチャネルであり、陽イオンの流入から脱分極をもたらして活動電位が発生する。TRPV1以外にもいくつかのTRPチャネルが侵害刺激を受容することが明らかになっており、感覚神経終末で侵害刺激を電気信号に変換する機能を担っている.
(富永 真琴 TRPチャネルと痛み p.128) |
|
◆ |
PAR-2と痛み
トリプシンなどの特定のセリンプロテアーゼの細胞作用を媒介するGタンパク共役型受容体PAR-2は、上皮細胞系や知覚神経C線維ニューロンに豊富に発現している。このPAR-2は体性痛や内臓痛の情報伝達制御に深く関わっており、新たな創薬標的分子として注目されている.
(川畑篤史 PAR-2と痛み p.133) |
|
◆ |
神経ペプチドと痛み
一次知覚神経に存在する神経ペプチドの発見は、痛みの伝達に関与することが期待され痛みの研究に大いなる影響を与えた。ブラジキニンなどの発痛物質や炎症時に産生するインターロイキン-1βなどのサイトカインは、知覚神経からの神経ペプチドの遊離を制御し痛覚過敏などを誘発している可能性がある。神経ペプチドの遊離機構を解明すれば、痛みの制御に貢献できる.
(井上敦子 神経ペプチドと痛み p.137) |
|
◆ |
一酸化窒素と痛み
これまで、神経因性疼痛は痛覚伝達系の形質転換や神経回路の再構築など器質的変化のため、難治性になると信じられてきた。神経因性疼痛は損傷した末梢神経の異常入力がNMDA受容体を活性化し一酸化窒素を持続的に産生させることによる機能的変化が原因で、一酸化窒素が痛みのバイオマーカーとなる可能性を報告する。炎症性疼痛が炎症の消退によりなくなるように、神経因性疼痛の少なくとも一部は神経再生により根治できる.
(伊藤誠二 脊髄における一酸化窒素(NO)産生と痛み p.141) |
|
◆ |
不安と痛み
”痒み“や”痛み“は私たちに不快な感覚を抱かせる。私たちの脳はそれらをどのように作り出しているのだろうか?最近の脳機能イメージング研究からその答えが明らかにされつつある。さらに、ヒト脳内に痒みを抑制するシステムが存在することも脳機能イメージング法によって明らかにされた。
今後、痒みの脳機能イメージング研究が痒みの認知神経科学と痒みの新しい治療法の開発に大きなインパクトになると期待される.
(望月秀紀 痒みに関する脳機能イメージング研究の展開 p.147) |
|
◆ |
動物モデルと痛み
神経因性疼痛モデル動物は,主流である末梢神経損傷によるものから,糖尿病性や帯状疱疹後神経痛,化学療法薬によるものまでバラエティーに富んでいる.これらは,作製法が異なるだけではなく,疼痛の発症機序,薬物の感受性も様々である.各々のモデルでの疼痛機序は独立したものと考えることが重要であり,様々なモデルで検討すること,モデル間の差がどのようにして生じるのかを明らかにすることが非常に重要である.
(佐々木 淳 種々の神経因性疼痛モデル p.151) |
|
◆ |
Caチャネルと痛み
電位依存性Caチャネルは痛覚伝達機構において重要な働きをしている。本稿では種々神経特異的Caチャネルの、1.痛覚鈍磨、2.痛覚過敏、3.神経因性疼痛、4.オピオイド鎮痛とトレランスにおける役割に関して紹介する.(田邊 勉
Caチャネルと痛み伝達 p.156) |
|
◆ |
リゾホスファチジン酸と痛み
神経因性疼痛は急性の痛みが単純に強くなったり、慢性化しただけではない。メカニズムには全く質的な違いがある。そのため、モルヒネや抗炎症薬が有効でなくなる。本稿ではこの発症の分子機構を明らかにした。神経傷害により産生されるリゾホスファチジン酸がその分子実態を担い、主に脱髄作用を介し線維間の混線や脊髄入力の誤入力を来すことによりアロディニアを示す.
(植田弘師 傷害性神経因性疼痛誘発を担うリゾホスファチジン酸 p.161) |
|
◆ |
ATPと痛み
神経因性疼痛発症に脊髄ミクログリアのP2X4刺激が必要であるが、そのP2X4がどのようなメカニズムで発現増強するのかについて紹介した.
(井上和秀 ATPと痛み p.166) |
|
◆ |
がんと痛み
がんの痛みは非常に強く、また病巣を越えて広い範囲に及ぶことがしばしばである。これはがんが疼痛伝達系の感作をおこすことや、関連痛とよばれる現象をおこすことなどが原因と考えられている。がんの痛みは基本的に腫瘍増殖に伴う侵害受容性疼痛であるので、WHO3段階除痛ラダーに従い、非オピオイド、オピオイドを組み合わせて除痛を行うことが原則である。がん患者の痛みは身体的な痛みに加えて精神的、社会的、霊的な痛みなど発生するため、多職種がチームを組み、患者、家族の希望に沿った全人的ケアを行うことが重要である.
(冨安志郎 がんと痛み-臨床の立場から- p.171) |
|
◆ |
日本人と痛み
日本の慢性疼痛に対する大規模調査を行った結果、13.4%の人が痛みを抱えていることが分かった。そして、その治療効果は2割程度と低く、今後、疼痛治療を専門に行うペインクリニック医師の教育・育成が重要課題となるであろう。また患者意識の背景にある鎮痛薬の副作用に対する恐れについても服薬指導、副作用対策を中心に必要となるであろう.
(服部政治 日本における慢性疼痛保有率 p.176) |
実験技術 |
タバコによる慢性閉塞性肺疾患
高齢化社会の進展に伴い,慢性閉塞性肺疾患の患者数と死亡率は今後さらに増加することが予想されている.我々はタバコ煙の曝露あるいはタバコ煙溶液の気管内投与により3種のCOPDモデルを開発した.これらのモデルはCOPDの病態メカニズムの解明および新規治療薬の開発に大きく貢献するものと期待される.
(渕上淳一 タバコ煙を用いた慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬効評価モデル p.183) |
治療薬シリーズ(1)うつ病 |
|
◆ |
オーファンGPCRとうつ病
対応する内因性リガンドが不明なオーファンGタンパク質共役型受容体はヒトでは約160個存在すると予想される。そのリガンド探索によりこれまでに数多くの成果が報告されてきた。そのなかでうつ病との関連が示唆されている神経ペプチドについて紹介する.
(斎藤祐見子 オーファンGPCRとうつ病 p.190) |
|
◆ |
神経ペプチドとうつ病
脳内で生合成される神経ペプチドと呼ばれる一連の分子群がうつ病・不安障害などのストレス性疾患の発症に関わる因子として注目を集めている。神経ペプチドの受容体にターゲットをあてた創薬研究から次世代の抗うつ薬が創出されるか、製薬企業の挑戦が続けられている.
(茶木茂之 神経ペプチド受容体:抗うつ薬創出の新しいターゲット p.196) |
|
◆ |
脳由来神経栄養因子とうつ病
近年,自殺の増加が社会問題になってきており,その原因の一つがうつ病である.うつ病の治療には,セロトニン再取り込み阻害作用を有する薬剤等が使用されている.これらの薬剤の薬効発現には数週間かかる事より,細胞内の様々なシグナル伝達系に関わる脳由来神経栄養因子が注目されている.
(橋本謙二 うつ病と脳由来神経栄養因子(BDNF) p.201) |
|
◆ |
新しいうつ病治療薬開発
本稿では、どのような新規作用機序の化合物が開発されているのか、あるいは開発準備中であるのかが分かりやすいように、現在上市されているものおよび開発中・開発準備中の抗うつ薬候補をその作用機序を基に分類し、どのような化合物が開発中であるのかを述べる.
(市丸保幸 うつ病治療薬の開発状況 p.205) |
|
◆ |
うつ病と治療薬
うつ病の症状は、軽症から重症だけでなく、その内容も多岐にわたり、反応する薬物も様々である。第一選択薬が無効であった場合、第二選択薬は注意を要する。その決定に際して、ガイドラインは有用である。その運用に当たっては機械的にならず、その選択理由を考えることが大事である。また、その判断基準に客観的な治療マーカーを見出していくことが重要な課題である.
(白山幸彦 うつ病治療の現場から(治療薬の問題点と望まれること)p.209) |
総 説 |
|
|
医薬品開発における物性評価
本稿は、医薬品開発をスピードアップするために探索段階で実施すべき「創薬段階における物性評価の重要性」についてまとめている。探索段階においては、経口吸収性に関わる溶解度や脂溶性などの物性評価が重要であり、開発候補化合物は、最終的な原薬と製剤の品質保持を考慮し、原薬開発基本形である塩形および結晶形を選定する必要がある.
(芦澤一英 医薬品開発における物性評価の重要性 p.213)
|
|
創薬初期段階での評価
創薬における探索段階の初期から薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は重要課題である。その多面的科学領域からの総合的評価により、(1)薬効・安全性(薬物動態評価を含む)評価、(2)物性評価からの開発性の評価、(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ)、(4)候補化合物選定のためのランキング設定、(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.
(堀井郁夫 新薬の創出に重要な創薬初期段階での安全性、薬物動態および物性試験 p.217)
|
新薬紹介総説 |
α-グルコシダーゼ阻害薬ミグリトール
ミグリトール(セイブルR錠)は国内で10年ぶりに承認された3番目のα-グルコシダーゼ阻害薬であり,糖質の消化・吸収を遅延し,糖尿病患者の食後高血糖を改善する経口糖尿病薬である.本総説では国内の非臨床および臨床試験を中心に,ミグリトールの薬物動態学的および薬理的学特徴と臨床試験成績を紹介する.
(久保山 昇 新規α-グルコシダーゼ阻害薬ミグリトール(セイブルR錠)の薬物動態学的および薬理学的特徴と臨床試験成績 p.223)
|
ゲノム薬理学 四方山ばなし |
|
◆ |
テーラーメイド医療の実現を目指して
ボランティア50万人の遺伝子・臨床情報を収集・解析するUK Biobankの本格的実施、国内における個別化適正医療実現化プロジェクトおよびゲノム情報に基づく医療実現のための治験・臨床試験の実施状況等を概説し、今後の課題を展望した。
(伊藤継孝 テーラーメイド医療の実現を目指して p.233)
|
くすりの来た道 |
最終回 |
アインシュタインの予言
医薬の象徴的生物であるヘビ、錬金術(化学、薬学)の象徴であるウロボロス。ヘビは線、ウロボロスは円。清張なら「円と線」で推理小説が書けたかも?
(岡部 進 アインシュタインの予言 p.238)
|