●癌細胞を狙って殺す●
癌細胞を選択的に攻撃する物質の創製を目指して、腫瘍選択性の高い化合物の網羅的な探索と分子構造の予測、アポトーシス制御性リード化合物の分子設計、癌細胞の生存機構について最新の研究成果を報告する。
(坂上宏「腫瘍選択性とアポトーシス」序文 p.321)
◆腫瘍選択性とアポトーシス
抗腫瘍薬は、癌細胞にアポトーシス以外の細胞死をも誘導するが、多種の天然および合成有機化合物の腫瘍選択性とアポトーシス誘導活性との間に明確な相関関係は検出されなかった。細胞傷害活性と腫瘍選択性に影響を与える化合物側、環境側、細胞側の種々の情報を体系化することにより、より腫瘍選択性の高い化合物を設計することが可能になると思われる.
(坂上宏 腫瘍選択性の高い物質の探索:アポトーシス誘導活性との相関 p.322)
◆新しい構造活性相関の予測法
天然および合成化合物を用いて細胞傷害性、アポトーシス誘導性から腫瘍選択性の高い物質の探索を定量的構造活性相関解析(QSAR)で行なうことは、創薬への貢献が期待できる。半経験的分子軌道法(PM3)で種々の記述子を計算し相関性を検討して、CONFLEX/PM3法が、迅速、簡便にQSARに応用できることを示した.
(石原真理子 半経験的分子軌道法を用いた分子構造と細胞傷害活性の相関関係の予測 p.329)
◆新しいコンピュータ創薬
21世紀の医療として期待される “テーラーメイド医療” を現実のものとするには、コンピュータシミュレーション技術を駆使した「ゲノム創薬」のシステムを確立する必要がある。本稿では、その新しいin
silico創薬の展開について、アポトーシス制御性リード化合物の創製を例に挙げながら紹介する.
(田沼靖一 In silico医薬分子設計手法によるアポトーシス制御性リード化合物の創製 p.335)
◆抗癌薬耐性のメカニズム
抗癌薬に対する耐性は悪性腫瘍の化学療法にとって重要な問題である。そのメカニズムは、大きく “薬剤に対する抵抗性“ と細胞死やアポトーシスを誘導する広範な遺伝子的なストレスに対して抵抗性が高くなる
“細胞死に対するサバイバル“ に2分できる。
(坂井隆之 化学療法薬からの癌細胞のサバイバルメカニズム p.342)
●第21回学術奨励賞受賞総説●
◆アポトーシスとミトコンドリア
「細胞の自殺プログラム」として発見されたアポトーシスは,生理的細胞死のみならず病態的な細胞死においても重要な役割を果たすことが明らかとなってきた.中枢神経系の病態発現,特に脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病に関わるアポトーシスとその発現制御におけるミトコンドリアの役割について紹介する.(田熊一敞
中枢神経系のアポトーシスにおけるミトコンドリアの役割に関する研究 p.349)
◆苔状線維発芽と側頭てんかん
側頭葉てんかん患者にしばしば見られる海馬苔状線維の異常発芽は、歯状回の神経回路を再帰型に再編成するという観点で興味深い。この現象の原因と結果について、最新の知見を交えながら考察する
(池谷裕二 苔状線維発芽は側頭てんかんの治療ターゲットとなるか p.355)
◆細胞内カルシウムの可視化
カルシウムシグナルは様々な細胞機能を制御するシグナル伝達系である。カルシウム濃度は時空間的に複雑な振る舞いを示す。カルシウムの上流と下流分子を直接可視化することによって、複雑なカルシウム濃度変化を制御するメカニズムやその意義が明らかとなってきた.
(廣瀬謙造 細胞内カルシウムシグナリングの可視化 p.362)
総 説
◆アセチルコリンと進化
神経伝達物質として理解されているアセチルコリンは生物進化の初期より発現し,細胞間の情報伝達物質として働くとともに,細胞内への水,電解質あるいは栄養物質の取り込み調節に関与している可能性が考えられる.哺乳動物の細胞や器官で非神経性アセチルコリンの発現が確認され,細胞増殖,細胞間接着,運動,分化,アポトーシスなどの微細な調節への関与が明らかになってきた.
(川島紘一郎 哺乳動物における非神経性アセチルコリンの発現とその生理作用 p.368)
実験技術
◆抗てんかん薬で骨粗鬆症をつくる
フェニトインを始めとする3種類の抗てんかん薬を雄ラットに5週間連続投与すると骨密度減少が起こり、骨代謝(骨形成系と骨吸収系)も影響を受けたが、それらの作用強度は薬物により異なった。そして骨粗鬆症治療薬には予防回復的効果があった。これは骨粗鬆症治療薬の評価モデルとしての有用性があり、病態機構の研究にも役立つことを示している.
(小野寺憲治 抗てんかん薬による骨粗鬆症の動物モデルの有用性について p.375)
●治験薬シリーズ-高血圧-●
◆開発中の高血圧治療薬
現在、幾つかの高血圧治療薬(エプレレノン、アリスキレンなど)が臨床治験の後期段階に進んでおり、近い将来、国内でも利用可能になることが予想される。これらの薬物は、単剤または既存薬との併用において特徴的な薬理作用を示すことが明らかとなっている。
(吉川公平 高血圧治療薬の基礎:開発中の高血圧治療薬 p.381)
◆食塩感受性高血圧とNa+/Ca2+交換体
高食塩を摂取すると、なぜ血圧が上昇するのであろうか?最近、食塩負荷により分泌されたNa+ ポンプ抑制因子が動脈平滑筋細胞に作用することで細胞内Na+
濃度が増加し、その結果、Na+/Ca2+ 交換体を介したCa2+流入が起こり、血管緊張を高めて血圧が上昇する機序が明らかになってきた。この機序の治療応用が期待される.
(岩本隆宏 食塩感受性高血圧とNa+/Ca2+ 交換体:食塩負荷から血管トーヌス亢進への古くて新しい機序: p.387)
◆高血圧症の薬物療法
わが国では4人に1人が高血圧症であると言われ、心血管病の予防の面からもその治療は重要である。現在使用されている主な降圧薬は、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であり、JSH2004に準拠した使用が推奨されている。高血圧症に対する薬物療法の現状と今後についてまとめた.
(小池城司 高血圧症に対する薬物療法の現状とこれから p.393)
新薬紹介総説
◆口腔乾燥症状改善薬 塩酸ピロカルピン
塩酸ピロカルピン(販売名:サラジェンR 錠 5 mg)は,ムスカリンアゴニストとして作用を示す副交感神経刺激薬であり,強力な唾液分泌促進作用を有する口腔乾燥症状改善薬である。放射線治療後の口腔乾燥症の諸症状に対して高い改善効果を示し,患者のQOLの向上が期待される有用な薬剤であると考えられた。
(丸山和容 口腔乾燥症状改善薬 塩酸ピロカルピン(サラジェンR 錠 5 mg)の薬理学的特徴および臨床試験成績 p.399)
◆新規外用抗真菌薬ルリコナゾール
ルリコナゾール(ルリコンR クリーム1%、ルリコンR 液1%)は、外用抗真菌薬として初めての光学活性を有するイミダゾール系の新医薬品であり、広い抗真菌スペクトルと強力な抗真菌活性に加え、高い皮膚貯留性を有する。短期間の薬剤塗布終了後も皮膚角層中での効果が持続し、白癬、皮膚カンジダ症、癜風の適応がある.
(岸井兼一 新規外用抗真菌薬ルリコナゾール(ルリコンR クリーム1%、ルリコンR 液1%)の薬理学的特性と臨床効果 p.408)
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