●薬の副作用●
両刃の剣と言われる薬物を用いる医療現場で副作用を未然に防ぐ事ができたら、何とすばらしいことであろうか。そのためにも副作用の発現機序を薬理学的に解明することは重要となる。本特集では薬剤性臓器障害の発現機序について解説する.
(荒木博陽「副作用と薬理」序文 p.423)
◆肺障害
抗癌薬のゲフィチニブや抗リウマチ薬のレフルノミドの服用による間質性肺炎で死亡事故が相次ぎ、マスコミでも大きく取り上げられたことは未だ記憶に新しい。薬剤性肺障害は、成因から肺組織に対する直接的な障害作用によるものとアレルギー性機序によるものに分類され,前者は投与量依存的であるが後者は投与量非依存的である。しかし、薬剤性肺障害の発症機序の詳細についてはほとんど不明である。
(伊藤善規 薬剤性肺障害 p.425)
◆腎機能障害
腎臓は、その構造や機能の特性により薬物濃度の増大を招き易いことなどのため、副作用を生じやすい器官である。生命の維持における腎臓の大切さを考えると、薬物による腎機能障害をできるだけ早期に見つけだし、原因となる薬物の投与計画の見直しが重要である。薬物性腎障害の防御や軽減のためには、その病態と発症機序についての理解が大切であろう.
(玄番宗一 薬物による腎機能障害の病態と発症機序 p.433)
◆心機能障害
スタチンで阻害されるメバロン酸経路は,肝細胞におけるコレステロール生合成のみならず,多くの臓器細胞で生体必須成分の生合成に関与している.スタチンのpleiotropic
effectsともてはやされるこれらの作用は,場合によっては予想外の副作用に繋がることがある.「くすりは諸刃の剣」を今一度考える.
(市原和夫 心機能障害 p.441)
◆口腔内障害
口腔は、消化機能、咀嚼機能、感覚機能、発音機能といった数多くの機能を備えているため、薬物の副作用により機能不全が生じると健康のバランスに及ぼす影響が大きい。ここでは、薬物によって生じる味覚障害、口腔乾燥症、歯肉肥大症に絞って解説した.
(川口充 薬物治療と口腔内障害 p.447)
◆肝機能障害
薬物性肝障害には,動物実験でも再現される非特異体質性肝障害と再現できない特異体質性肝障害がある。どちらも反応性代謝物の生成が最初のステップとなっているが、非特異体質性肝障害では先天的に備わっている免疫系である自然免疫が関り,特異体質性肝障害では反応性代謝物により修飾されたタンパク質に起因する獲得(適応)免疫が関っている模様である.
(池田敏彦 肝機能障害 p.454)
実験技術
◆ラットを用いた嘔吐測定
ラットやマウスなどげっ歯類に属する動物は嘔吐を起こさないが、嘔吐に対応した行動として通常の食餌とは全く異なったものを摂取するいわゆる異食行動を起こす。著者らはカオリン(白陶土)をラットが摂食しやすい硬度や形状に工夫して固めて飼料を作製した。これを用いて,嘔吐しないラットで嘔吐を調べる簡便な実験方法を紹介する.
(斎藤亮 ラットを用いた簡便な嘔吐測定法 p.461)
実習技術
◆薬物動態シミュレーションプログラム
生命科学教育の場でも、動物実験代替法を用いる動きが広まっている。鶴見大学歯学部の薬理学実習では、英国薬理学会が開発した薬理学実習のソフトウエアの1つである薬物動態シミュレーションプログラムを用いたシミュレーション実習を取り入れており、その内容を紹介する.
(柴田達也 薬物動態シミュレーションプログラムを用いた実習方法 -歯学部薬理学実習への応用- p.467)
総 説
◆特異体質性薬物毒性
特異体質性薬物毒性(IDT)は,医薬品の開発段階の動物実験や臨床試験では発見されることはほとんどなく,医薬品として上市され,より多くの患者さんに使用されて初めて発現する重篤な副作用であり、世界中の製薬企業は,IDTを惹起する可能性のある医薬品候補物質をその開発のなるべく早い段階で見いだし排除する努力をしている.
(山田久陽 特異体質性薬物毒性 p.473)
●治験薬シリーズ(4)脳梗塞急性期●
◆脳梗塞モデル
脳梗塞急性期の治療薬開発のために,主に小動物のモデルが使用されてきたが,ヒトへの外挿性を考えた場合,よりヒトの脳卒中病態に近いモデルが必要となる.そこで,血管走行や行動においてヒトに近いサルを選択し,非侵襲的で比較的再現性の良い方法として自家血血餅により中大脳動脈を閉塞する脳塞栓症モデルを確立した.
(進照夫 脳梗塞モデルとヒトへの外挿性 p.481)
◆アストロサイト特異的タンパクS100B
脳梗塞病態において,アストロサイトの異常活性化に伴って産生,分泌が亢進するS100Bは,神経細胞やアストロサイト自身などにも作用して炎症性因子の発現を増加させ,病態悪化に関与している.Arundic
acidは, in vitroにおいてS100B産生を抑制して神経細胞保護作用を示し,脳梗塞病態モデルにおいても有効性を発揮し,急性期脳梗塞治療薬としての有用性が期待される.
(品川理佳 脳梗塞急性期におけるアストロサイト特異的タンパクS100Bの役割 p.485)
◆脳梗塞急性期治療薬
脳梗塞急性期の治療は,昨年末に血栓溶解薬rt-PA(アルテプラーゼ;遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲンアクチベータ)の静注療法が承認され,ようやく2004年に日本脳卒中学会などが作成した脳卒中治療ガイドラインに沿った治療薬の選択ができるようになった.抗血栓療法(血栓溶解療法,抗血小板療法,抗凝固療法)を中心とする脳梗塞急性期の薬物療法の現状を概説し治療薬の将来を展望する.
(島克司 脳梗塞急性期治療薬?現状と今後の展望 p.489)
新薬紹介総説
◆男性型脱毛症用薬フィナステリド
5α還元酵素Ⅱ型阻害薬であるフィナステリドは、テストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を阻害する作用を有することで、男性型脱毛症(AGA)治療薬として開発された。本剤は48週間投与で明らかな臨床効果を示し、長期投与時の安全性が認められた。本稿では薬理作用および臨床成績を紹介する.
(福住仁 男性における男性型脱毛症用薬5α-還元酵素Ⅱ型阻害薬フィナステリド(プロペシアR錠0.2 mg・1 mg)の薬理学的特性と臨床効果 p.495)
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