●血管障害と治療薬を結ぶ薬理ゲノミクス解析●
20世紀の分子薬理学から21世紀の薬理ゲノミクスへの展開は、薬物作用シグナル伝達のパスウェイ解析から薬理ゲノミクスネットワーク解析へのパラダイムシフトであり、疾患ゲノミクスとの統合的解明が可能になりつつある。
(田中利男 「パスウェイ解析からネットワーク解析へ」序文p.129)
◆薬理ゲノミクス解析
薬物と薬物受容体の分子間相互作用とそのシグナル伝達機構と、適応疾患との薬理ゲノミクスのネットワーク解析を、循環器薬のレニン・アンジオテンシン系阻害薬やHMG-CoA還元酵素阻害薬を例に取り、示した。
(田中利男 血管障害と治療薬を結ぶ薬理ゲノミクス解析 p.130)
◆ アディポネクチンと糖尿病
肥満症では、脂肪細胞由来ホルモンのアディポネクチンAdとその受容体AdipoRの両方が低下して糖尿病・メタボリックシンドロームの原因となっており、その作用低下を補充して、AMPキナーゼやPPARαを活性化することがこれらの治療法となり得る。核内受容体型転写因子PPARγとαの同時活性化は、高活性型AdとAdipoRを増加させ、相加的な効果が期待出来る。AdipoR作動薬のリード素材とも言うべき分子が野菜・果物に含まれることも明らかとなってきた.
(山内敏正 糖尿病とメタボリックシンドローム p.133)
◆HSP27とバソプレシン
低分子量ストレスタンパク質の一つであるHSP27は非刺激時においても血管平滑筋に高く発現しており、リン酸化によりその機能が制御されることが知られている。一方、心肺蘇生に用いられる薬としてバソプレシンが挙げられている。血管平滑筋における昇圧物質としてのバソプレシンの作用をHSP27との関連において私共の知見を含め紹介する.
(高井信治 低分子量ストレスタンパク質とバソプレシン:HSP27と血管平滑筋 p.141)
◆ インスリン抵抗性と血管障害
メタボリック症候群の根底にはインスリン抵抗性が存在するといわれている。血管病におけるインスリン抵抗性の細胞内情報伝達機構に関する研究から、いくつかの治療標的分子の候補が明らかになってきた。今後のゲノム創薬の進展に期待が持たれる.
(吉栖正典 インスリン抵抗性による血管障害の細胞内情報伝達機構 p.147)
◆腎糸球体障害とRhoキナーゼ
GTP結合タンパク質の1つであるRhoは細胞機能の分子スイッチとして働き、血管の収縮の調節や、動脈硬化にも重要な役割をはたしている。我々は高血圧性糸球体硬化におけるRho/Rho-kinase系の役割を検討し、Rho/Rho-kinase系が糸球体硬化の進展に一部関与し、その機序として細胞外マトリックス遺伝子、マクロファージ/単球の浸潤、酸化ストレスなどの抑制と、eNOS遺伝子の亢進を一部介していることを示した.
(錦見俊雄 高血圧性糸球体硬化進展におけるRho/Rho-kinase系の役割- Rho-kinase阻害薬の糸球体保護効果とその分子機序 p.153)
◆スタチンの多面的作用
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は血清コレステロールを低下させる作用を有するのみならず、多くのデータから心血管保護に関わることが証明されてきた。近年、その作用は用量により異なり、biphasic
effectsとして知られている。その機序に関してこれまでの知見をまとめた.
(塩田正之 スタチンのpleiotropic effectsとその分子機序 p.161)
●治験薬シリーズ(7)統合失調症●
◆統合失調症モデル
Non-NMDA受容体阻害薬のPCPを新生児期に投与したげっ歯類では,新生児期に前頭前皮質,中隔,視床,小脳で神経細胞とアストロサイトのアポトーシスの発現がみられるが,D-cycloserineの後投与でこの現象は拮抗される.また,離乳後に統合失調症様の行動障害が認められる.この統合失調症モデルの利用は統合失調症の病因の解明,セリンおよびグリシンをターゲットとした新規治療薬の開発の一助となることが期待される.
(山口和政 最近の統合失調症モデル p.169)
◆今後の統合失調症薬
統合失調症の治療に用いられる抗精神病薬のほとんどが、ドパミンD2受容体拮抗作用を有している。しかし、D2受容体拮抗作用には錐体外路系副作用(EPS)等を伴うという問題があったため、最近では、セロトニン5-HT2受容体拮抗作用を併せ持ったEPS軽減型の非定型抗精神病薬による治療が主流となっている。今後の新薬には、患者のQOL改善まで視野に入れたものが望まれており、非ドパミン系薬や認知障害に焦点を当てた薬剤の開発にも注目が寄せられている.
(德田久美子 統合失調症治療薬の薬理作用 p.173)
◆PETで見る統合失調症
PET(positron emission tomography)は脳内の代謝や神経伝達機能の変化を生体内で測定することが可能な分子イメージングの有力な研究方法であり、統合失調症をはじめとする精神神経疾患の病態解明や治療法の開発において重要な役割を果たすと考えられている。本稿では統合失調症での神経伝達機能の変化や薬物療法の開発におけるPET研究の現状について概括した.
(高野晶寛 PET研究により統合失調症はどこまで解明されたか? p.177)
展望シリーズ:ゲノム薬理学 四方山ばなし(7)
◆被験者の保護
GCP下でのヒトゲノム薬理学の倫理性を解説した.GCPには,被験者の人権,安全及び福祉の保護のもとに,治験の科学的な質と成績の信頼性を確保するため,わが国で最も重要な被験者保護の倫理が示されている.
(西村(鈴木)多美子ヒトゲノム薬理学データを新薬申請に活かすための倫理性 p.191)
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