●生活習慣病の治療戦略●
生活習慣に根ざした、糖尿病や肥満などの慢性疾患に関わる新たな分子機構は新薬創成の種となる。インスリン分泌調節におけるガス性シグナル伝達因子や、代謝や細胞分化に重要な転写因子群PPARについてのユニークな考察は薬物治療の新たな標的を示唆する。
(中山貢一 「生活習慣病の治療戦略」序文 p.207)血管障害と治療薬を結ぶ薬理ゲノミクス解析
◆KATPチャネル非依存性インスリン分泌
膵β細胞の研究は1984年に大きな転機を迎えた。この年、ATP感受性K+チャネルがβ細胞に存在することが示され、さらにこのチャネルがグルコースによるβ細胞の脱分極を引き起こす本体であることが証明された。最近、β細胞研究にまた新たな転機が訪れようとしている。KATPチャネル非依存性の機序である。その全貌は未だ見え隠れしている状態だが、新たな薬のターゲットとなる可能性を秘めるこの機序の現況を概説する.
(石川智久 ATP感受性K+チャネルを介さないグルコース応答性インスリン分泌機構 ~NOおよび細胞膨張によるインスリン分泌調節を中心に~ p.208)
◆気体分子H2Sとインスリン分泌異常
ガス性シグナル分子はNOやCOばかりではない。含硫アミノ酸L-システインがインスリン分泌を抑えることを見つけた筆者たちは、この抑制がL-システイン代謝により産生される気体分子H2S産生を介することを突き止めた。含硫アミノ酸代謝は、糖尿病や動脈硬化において異常が報告されている。これらの疾患におけるインスリン分泌異常はH2S産生の結果なのだろうか。H2Sの果たす役割に一層の注目が注がれる.
(仁木一郎 L-システイン代謝と硫化水素(H2S):インスリン分泌を抑制するシグナリング
p.214)
◆SOX6とインスリン分泌
転写因子の1種であるSOX6はMIN6細胞において、PDX1の機能を阻害することでインスリン分泌を抑制することを見出した。また、β細胞におけるSOX6の発現は高インスリン血症マウスで顕著に抑制されていた。このことから、SOX6はインスリン抵抗性に起因するβ細胞のインスリン分泌増加メカニズムに重要な役割を担っていることが示唆された.
(井口晴久 転写因子SOX6とPDX1によるインスリン分泌調節機構 p.219)
◆PPARδアゴニスト
PPARδは脂肪酸あるいはその誘導体をリガンドとする核内受容体で,骨格筋の脂肪酸代謝を調節している.PPARδアゴニストは骨格筋での脂肪燃焼を促進して抗肥満およびインスリン抵抗性改善効果を発揮する.本稿では,PPARδの骨格筋における役割と,動脈硬化の危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの新規治療薬として期待されるPPARδアゴニストの治療効果について概説する.
(田中十志也 PPARδとメタボリックシンドローム p.225)
◆ PPARγと大腸上皮細胞
PPARgは脂肪組織以外にも特に大腸に多量に発現しておりその制御機構の破綻は炎症や癌化に関与すると考えられる. 大腸上皮は増殖とアポトーシスのバランスを保ちながら秩序だった構造と機能を果たしており,
この調節にPPARgが重要である. インスリン抵抗性改善薬であるPPARgリガンドをACFなど前癌病変を指標とした化学発癌予防へ応用することは合理的であり,
近い将来実現されることが期待される.
(高橋宏和 PPARs阻害による大腸癌細胞でのアノイキス誘発と浸潤転移抑制への応用 p.231)
◆PPARγとNASH
非飲酒者でも脂肪肝に肝実質の壊死,炎症,線維化所見が加わった非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:
NASH)に対する関心が我が国でも急速に高まっている.NASHの治療は栄養療法の徹底が重要であり,難治症例には薬物療法が検討される.本稿ではNASH症例に対する栄養療法,PPARγリガンドであるpioglitazoneを用いた薬物治療を検討した.
(米田正人 PPARγリガンドを用いた非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療戦略 p.235)
●実験技術●
◆耳下腺腺房細胞の調製法
耳下腺の分泌機能を調べるにあたり,細胞の調製方法は実験の可否に影響を与える。我々は細胞を単離せず機能単位である腺房構造を残したまま腺房細胞を調製し実験に用いている。本稿では耳下腺腺房浮遊細胞の調製方法について紹介する. (大久保みぎわ 耳下腺腺房細胞の調製法 p.239)
◆マウス顎運動観察記録法
中枢ドパミン神経は広範な機能を担っているが、顎顔面領域の運動制御にも重要な役割を果たしている。近年、これら受容体の遺伝子欠損マウスが各種作出された。そこで、これらマウスの顎顔面領域の運動を観察記録するシステムを考案し、ドパミン受容体サブタイプの機能を探ってみた.
(富山勝則 新規拘束器とチェックリスト法を用いたマウス顎運動観察記録法 p.244)
●治験薬シリーズ(8)緑内障●
◆緑内障治療薬の概説
現在、主に用いられている抗緑内障薬について作用機序から分類し、概説する。後半において、今後、期待される開発中の薬剤について紹介するとともに、次の新薬を見出すために重要な動物モデルについても紹介する.
(島崎敦 緑内障治療薬の基礎 p.250)
◆緑内障治療の現状と展望
緑内障治療のなかで臨床的なエビデンスが確立したものは眼圧下降療法のみである。個々の患者において眼圧下降療法を行うにあたっては、短期的には眼圧の生理的変動の影響をできるだけ除去した上でその効果を検討していく必要があり、長期的には視野障害進行の予防効果の有無を適切に評価しなくてはならない。神経保護治療や血流改善治療も眼圧下降療法に加え得る治療法として期待されているが、現在のところ臨床的なエビデンスはなく、今後の研究の進展が期待される.
(富所敦男 緑内障治療薬の臨床現状と今後の治療薬に期待すること p.255)
●新薬紹介総説
◆排尿困難改善薬シロドシン
前立腺肥大症に伴う排尿困難改善薬シロドシン(販売名:ユリーフ?カプセル2 mg, 4 mg)は,選択的?1A-アドレナリン受容体遮断薬である.前立腺肥大症に伴う排尿障害に対して高い改善効果を示し,患者QOLの向上が期待される有用な薬剤であると考えられる.(小林護 前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシン(ユリーフR
カプセル2 mg, 4 mg)の薬理学的特徴および臨床試験成績 p.259)
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