●In
vitro試験法●
近年、研究開発の効率化の観点などからin vitro研究のアプローチが積極的に検討されている。薬理学研究を実践して行く上で参考となる広義のin
vitro研究へのアプローチについて最新情報を紹介する。
(吉山友二 薬理作用の予測法におけるIn vitro試験法の有用性と限界「序文」 p.287)
◆安全性評価におけるIn vitro試験法
安全性評価におけるin vitro試験法の利用目的は動物試験の代替法、スクリーニング試験法、毒性発現機構の解明、ヒトへの予測性の向上の4つが考えられる。各々の目的に応じた有用な方法が開発されてきたが課題もある。毒性発現機構が解明されることで的確な指標を有する新規な試験系が開発されることが期待される.
(川村聡 企業における安全性評価のためのIn vitro試験法の現状 p.289)
◆In vitro ESR法 その1
様々な病態生理学的現象に関わる酸化ストレス(oxidative stress)を惹き起こすのが活性酸素種(Reactive Oxygen Species:
ROS)であり,このROSの生体に対する酸化作用を減弱する能力である抗酸化能が薬剤,健康飲食料品の分野で注目されている。この抗酸化能評価においてin
vitro電子スピン共鳴 (ESR) 法がROSを特異的に検出可能な方法であることから,その抗酸化能評価の実際と有用性について紹介する.
(李昌一 電子スピン共鳴(ESR) 法を用いた薬剤の抗酸化能評価 p.293)
◆In vitro ESR法 その2
活性酸素・フリ-ラジカルが多くの脳疾患の病態に深く関与していることが指摘されている。現在使用されている多くの薬剤に活性酸素・フリーラジカルを消去する能力が存在する可能性がある。In
vitro ESR(電子スピン共鳴)法は、かかる観点の検討にすぐれた検出手段である。薬剤の薬理作用の多面性の一端に活性酸素・フリ-ラジカル消去能からのin
vitroアプローチは重要である.
(池田幸穂 電子スピン共鳴(ESR)法を用いた医薬品の脳疾患への有効評価 p.298)
◆ラット全胚培養法と胎児毒性
哺乳類の妊娠動物はお腹の中にいて魚類や鳥類の卵のように中を観察するにはエコーなどの不鮮明な機器に頼るしかない。奇形などを含む胎児毒性の発現機序を追及するには、視覚的に観察できる試験系が望ましい。そこで、ここで報告する実験系はラット胎児を母体より取り出し培養瓶に移して培養する方法を紹介する。この方法を用いれば、経時的にラットの胎児が成長してゆく様が確認でき、添加した医薬品などの胎児への良いも悪いも影響が確認できる.
(横山篤 ラット全胚培養法における医薬品の薬理作用について p.303)
●実験技術●
◆ニューロンの細胞内記録法
脳スライス標本を用いた細胞内記録法の手技をパッチクランプ法と比較しながら紹介する。Sharp grass electrodeを用いた細胞内記録法は、細胞質のwashoutが最小限に抑えられ、成熟動物標本へ適用しやすい等の長所を有し、パッチクランプ法で得ることが困難な情報を引き出せる手法である。多くのニューロンの情報を解析するためには、両手法の長所短所を理解し、お互いの不足分を補うような手技の選択が肝要である。
(小林真之 脳スライス標本を用いた細胞内記録法によるニューロンの機能解析 p.309)
◆口腔内実験法
ラットの口腔内を対象にした実験を行う場合,ラットの口腔は微小であり,開口量は比較的大きいが操作が煩雑であるという欠点がある.そこで,ラットの口腔内が見やすい,しかも気道を圧迫する恐れのない,術中に死に至ることもない開口器を開発し,若干のデータを得ている.盲嚢(ポケット)内に結紮糸を留置し物理的刺激を加えることによる歯周炎の生成,歯周病原因菌の盲嚢内定着による歯周病の生成,歯の移動のためのデバイスの装着,口腔粘膜,歯肉,舌の特定部位への物質の投与等の実験に有用である.
(藤井彰 小動物を用いた口腔内実験法 p.315)
●治験薬シリーズ(9)疼痛●
◆疼痛治療薬の基礎
痛みは炎症性疼痛、侵害受容性疼痛および神経因性疼痛など急性痛から難治性の慢性痛まで多種多様である。現在、非ステロイド性鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬、適応外処方では一部の抗てんかん薬や抗鬱薬などが治療に用いられている。近年、疼痛発症に関する基礎研究は飛躍的に進行し、末梢組織、後根神経節、脊髄後角さらに脳などで痛みに深く関わるタ-ゲット分子が多数発見され、疼痛治療に新たな薬剤の誕生が期待される.
(砥出勝雄 疼痛治療薬の基礎 -痛みの基礎および新規疼痛ターゲット p.321)
◆疼痛治療薬の臨床現状
痛みの治療を専門とする医師の間でも、神経因性疼痛に対して患者が満足するような確実な除痛効果が得られないこともあり、しばしば治療に難渋するのが現状である。その中でも、鎮痛補助薬である抗鬱薬、抗痙攣薬、NMDA受容体作動薬などの使用により、痛みに関与する神経伝達物質の促進・抑制、各種チャネルや受容体の作動・遮断をおこなうことで、痛みを緩和することが可能な場合もある。欧米ではCaチャネルブロッカーであるプレガバリンが有望視されているが、残念ながら本邦では未発売である。一方、以前は神経因性疼痛に無効と考えられていたオピオイドに関しても、近年では有効性を示す論文も散見される。今後も、副作用の少なく除痛効果の高い薬物の開発が望まれる.
(井関雅子 疼痛治療薬の臨床現状と今後の治療薬に期待すること p.326)
●新薬紹介総説
◆アリピプラゾールと統合失調症
従来の統合失調症治療薬 (抗精神病薬)がドパミンD2受容体アンタゴニストであるのに対し,新しい抗精神病薬アリピプラゾール(エビリファイR)はドパミンD2受容体部分アゴニストである.アリピプラゾールは,従来の抗精神病薬とは異なりドパミン神経伝達に対してdopamine
system stabilizer (DSS)として働くことより次世代の抗精神病薬として注目されている.
(廣瀬毅 統合失調症治療薬アリピプラゾール(エビリファイR) p.331)
|