●ストレスと生活●
◆序文
ストレスはわるいものとは限らず、よいシグナル、刺激にもなる。ストレスをうまく利用できることが望ましい.
(二木鋭雄 「ストレスと生活」序文 p.75)
◆ストレスとは
われわれは日常的にストレスにさらされており、これがこころやからだの健康をおびやかして不調、疾患の原因にもなっている。しかし、われわれにはストレスに対する応答機能も備わっており、ストレスをうまく利用してホメオスタシスを保ち、また防御機能を高める術を構築している。ストレスは常にわるいものとは限らず、場合によってはよいシグナルとなっている.(二木鋭雄 p.76)
◆唾液で分かるストレス
人体には,自律神経系や内分泌系などの情報伝達系の制御が働いている。従来のストレス検査では,交感神経系のみ,もしくは内分泌系のみを計測するものが中心であった。また,体の状態は時々刻々と変化するのに,被測定対象が健常であるかどうかは主観的に判断されており,疾患などの影響を定量的に考慮していなかった。これからのストレス検査では,唾液を用いて簡便に,かつ複数のバイオマーカーを用いることによって,交感神経系と内分泌系に加え,免疫系も同時に評価することが重要となってくる.(山口昌樹 p.80)
◆酸化ストレスへの遺伝子応答
生物は酸化ストレスに対する防御機構を獲得することによって、地球環境に適応してきた。防御機構の構築およびその維持は、細胞の遺伝子発現の調節によってなされてきた部分が大きい。生物が酸素を使って生命を維持するうえで、酸化は避けることができない。酸化生成物による遺伝子誘導の解析によって、これまで細胞毒性の強い物質として知られていたものが、様々な細胞防御遺伝子の発現誘導能をもつことがわかってきた.(野口範子 p.85)
◆ストレス応答の分子機構
私たちは、「細胞がストレスを感知し、ストレスに適切に応答する仕組み」を明らかするために、物理化学的ならびに生物学的ストレスによるMAPキナーゼファミリーの活性化機構とその病態生理学的意義を中心に解析している。本稿では、ASK-MAPキナーゼファミリーの解析を軸にストレス応答の分子機構から創薬基盤の創出を目指す私たちのアプローチの一端をご紹介する.
(一條秀憲 p.89)
◆疲労の科学と克服
現代ストレス社会では、日本国民の40%近い多数が慢性疲労に苦しんでいる。疲労は,ストレスが重積して起こる機能低下状態であり非常に身近な現象であるが,その分子神経メカニズムに関する研究は最近になりようやく活発になってきた。様々な原因による疲労を分析し定量化方法を開発して広範な研究を行い,よりよい克服法を探っていくことは,未病として生活習慣病などの発症や過労死等を防止する意味でも重要である.(渡辺恭良 p.94)
◆涙とストレス緩和
涙は一般にストレスや悲しい体験によって誘発される。しかし私たちは感動の涙やうれし涙も流す。後者の場合、内側前頭前野の共感に関係する脳領域が、流涙に先行して興奮する。この信号がトリガーとなって、脳内がリセットされ、その出力が脳幹の上唾液核を興奮させ、副交感神経(顔面神経)を介して涙腺を刺激する。この副交感神経の過活動が、ストレス時に興奮する交感神経活動を積極的に抑制して、ストレス緩和作用を発揮する.(有田秀穂 p.99)
総 説
◆転移性癌とコネキシン遺伝子
ギャップ結合を構成するコネキシン(Cx)遺伝子は、ある種の原発癌特異的に癌抑制作用を示す。しかし、転移性癌における抑制効果に関してはまだ明らかとなっていない。本稿では、難治性の高い転移性腎臓癌において癌抑制遺伝子として作用するCx遺伝子分子種の特定およびその機能解明、さらにはそのCx遺伝子の癌抑制遺伝子としての機能を生かした新たな転移性腎臓癌治療法開発の可能性について紹介する.(藤本絵里子 p.105)
治験薬シリーズ(12)抗てんかん薬
◆近年の抗てんかん薬
近年の抗てんかん薬の創薬研究から、その臨床有用性が期待される幾つかの化合物や新規な標的分子を介する作用機序の想定など興味ある知見が得られている。これらの内容を創薬薬理的に概説すると共に将来にわたり期待され、行われるべき本領域の研究を展望した.(三浦義記 p.110)
◆新規抗てんかん薬の将来性
抗てんかん薬を用いたてんかん治療は、発作症状の詳細な聴取から始まる。発作形態に特異的に著効する抗てんかん薬があるからである。臨床開発の努力によって、海外の開発に10数年遅れているが、ここ数年以内にいくつかの新規抗てんかん薬の上市をみる。ここでは、新規抗てんかん薬の登場に伴って生じてくるてんかん薬物治療の将来的変化に望むことに言及する.(植田勇人 p.115)
創薬シリーズ(1)標的探索
◆創薬ターゲットの同定
ヒトゲノムプロジェクト完了に伴い遺伝子情報が増大する中、迅速な"創薬ターゲット"の同定が創薬での大きな課題となってきている。各製薬企業は、RNAi
技術等の新しい分子生物学的手法を用いて生物学的POCを促進する一方、リード化合物探索システムを強化・集約することで創薬ターゲットの同定の効率化を進めている。これらの新しい試みにより、従来の手法では困難とされていたターゲットに対する創薬の方向性も模索されている.(鴇田滋 p.119)
新薬紹介総説
◆深在性真菌症治療薬
深在性真菌症治療薬として2006年4月に製造承認を取得したアムビゾームは、アムホテリシンBのリポソーム製剤である。本稿では、本剤のリポソーム製剤としての特徴、薬効薬理試験成績、および臨床試験成績について紹介する.(馬庭貴司 p.129)
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