●心血管病の細胞内情報伝達系●
◆序文
近年の長寿社会では、成人病における心血管機能の破綻の解明に向けた基礎的研究の重要性が認識されるようになっている。本号ではこの際の細胞内情報伝達系を扱う5篇のレビューを載せる。いずれも力作揃いです。
(小濱一弘 「心血管病に関与する細胞内情報伝達」序文 p.237)
◆SERCA2a遺伝子導入と心不全
心筋小胞体膜へのCa2+汲み上げを担当するSERCA2aタンパクの遺伝子をレンチウイルスベクターに組み込み、ラットの実験的心不全に用い、その長期効果を検討した。この遺伝子治療法は、不全心の形態学的、分子生物学的リモデリングを効果的に抑制し、心筋梗塞後の心不全の生命予後改善効果をもたらした.
(新井昌史 レンチウイルスベクターによるSERCA2a遺伝子導入はラット実験的心筋梗塞による心不全を改善し、左室リモデリングを抑制する p.238)
◆血管平滑筋Ca2+感受性増強
血管平滑筋の異常収縮は、虚血性心疾患、くも膜下出血後の脳血管攣縮といった、急激に発症し、生命にかかわる重篤な疾患の病態生理に、重要な役割を果たす。本稿では、血管平滑筋異常収縮のシグナル伝達機構について概説するとともに、Srcファミリーチロシンキナーゼの1種であるFynの役割、および近年シグナル伝達の場として注目されている細胞膜ラフトの関与について述べる.
(岸 博子 血管平滑筋Ca2+感受性増強の細胞内シグナル伝達におけるFynチロシンキナーゼおよび細胞膜ラフトの重要性 p.245)
◆Ca2+-induced
Ca2+-sensitization
Ca2+は平滑筋においてミオシン軽鎖キナーゼを活性化するとともに、低分子量GタンパクRhoの活性化とそれによるミオシン軽鎖ホスファターゼの抑制を引き起こし、効率良くミオシン軽鎖リン酸化レベルを増加させる。Ca2+のRho活性化作用には、クラスII
PI3KアイソフォームPI3K-Ca2αが関与している.
(多久和陽 PI3KクラスII アイソフォームPI3K-Ca2αを介した血管平滑筋収縮における
Ca2+-induced
Ca2+-sensitization p.253)
◆AT2受容体を介する心肥大
レニンアンジオテンシンシステムの抑制は循環器疾患の第一選択であり、その薬剤としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とAT1受容体拮抗薬(ARB)が存在する。共に臨床大規模試験では極めて有効な結果が得られているが、はたしてどちらが循環器疾患に有効性が高いのか?筆者は新しいアンジオテンシンII2型受容体の機能から
ACEIとARBの差異を考察する.
(千本松孝明 アンジオテンシンII2型受容体の最新の知見-AT2受容体を介する新しい心肥大のメカニズム- p.258)
◆心血管病とNCX1
Na+/Ca2+交換体の特異的阻害薬および遺伝子改変マウスを用いた研究から、1型Na+/Ca2+交換体(NCX1)が心臓や腎臓の虚血障害、食塩感受性高血圧、心不全などの発症・進展に密接にかかわることが解明されつつある。近い将来、Na+/Ca2+交換体阻害薬の臨床応用が期待される.
(岩本隆宏 心血管病における1型Na+/Ca2+交換体(NCX1)の役割 p.262)
治験薬シリーズ(14)高脂血症
◆高脂血症治療薬の基礎
高脂血症はすでにスタチンの登場によりかなり医療満足度の高い領域ではあるが、トリグリセリドの低下剤やHDL-コレステロールの上昇薬などのニーズもある。高脂血症治療薬の研究開発の観点からまずその薬効評価動物について、続いて既存薬に関して簡単に紹介した後に、最後に本稿の中心として新規薬剤のニーズについて、またいくつかの新規候補に関して紹介する.
(谷本達夫 高脂血症治療薬の基礎-基礎:高脂血症治療薬の研究開発- p.267)
◆非アルコール性脂肪性肝疾患の薬物療法
メタボリックシンドロームの肝における表現型である脂肪性肝疾患(FLD)は、肝細胞に中性脂肪が過剰に沈着し、肝障害をきたす疾患である。それらは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と総称され、肝組織診断で、脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝と、脂肪化に壊死・炎症、線維化を伴う脂肪性肝炎(NASH)とに分けられる。NASHから肝硬変症への進行は5-10年の経過観察で5-20%とされており、積極的な治療介入により進展を予防する必要がある。今回はNASHの定義、NASHの病態に関与するサイトカイン、薬物療法の可能性について概説する.
(寺井崇二 非アルコール性脂肪性肝疾患、肝炎に対する薬物療法について p.271)
創薬シリーズ(2)リード化合物の探索
◆HTSの現状と今後
日本の大学や大学院では、「高速大量スクリーニング」に関する概念や技術について学ぶ機会はほとんど無い。しかし、世界の製薬企業では、創薬研究の重要基盤技術として位置づけており、その応用範囲は拡大している。この製薬企業独自の技術である高速大量スクリーニングの現状と今後の展望について紹介する.
(植木智一 HTSの現状と今後の展望 p.276)
◆HTSからリード化合物を作る
「HTSからリード化合物はでるのか?」の問いに対しては「Yes」である。そして、この「Yes」には世界中の競争相手に勝つという意味が付加されなければならない。即ち、リード化合物を獲得しても競争に勝たなければ意味がない。日本の製薬企業は欧米の製薬企業より規模では劣り、不利な要素がたくさんあるが優位性も有している。競争に勝つためには、その優位性を強化するとともに、新たな方策を常に考える必要がある.
(三井郁雄 HTSからリード化合物はでるのか? p.281)
新薬紹介総説
◆B型慢性肝炎治療薬エンテカビル水和物
エンテカビル水和物(販売名:バラクルードR錠
0.5 mg)は,グアノシンと類似構造を持つヌクレオシド類縁体で,B型肝炎ウイルスに対して強力かつ選択的な阻害活性を有する.本薬は既存のヌクレオシド系B型肝炎治療薬の使用経験がないかその治療によりウイルスが耐性を獲得し薬剤不応となったB型慢性肝炎患者のいずれに対しても,単独治療のみで高い改善効果を示す.
(天野 学 B型慢性肝炎治療薬エンテカビル水和物(バラクルードR錠 0.5 mg)の薬理学的特性と臨床効果 p.287)
◆新規抗てんかん薬ガバペンチン
てんかん治療の主体は薬物治療であり,カルバマゼピン,フェニトインなど多くの抗てんかん薬が臨床で使用されている。しかし,既存の抗てんかん薬治療では,発作を抑制できない患者がいること,時に重大な副作用が発現すること,他剤との薬物相互作用の問題があることから,新たな抗てんかん薬の必要性は高い。今回,新規な作用機序を有する抗てんかん薬ガバペンチンの特性について概説する.
(国原峯男 新規抗てんかん薬ガバペンチン(ガバペンR) p.299)
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