●睡眠障害と睡眠覚醒調節●
◆序文
睡眠覚醒調節に関する研究では、多くの動物モデルが利用されてきた。睡眠異常を持つ動物モデルの存在が睡眠研究を飛躍的に進展させる場合がある。ヒトの睡眠問題と何らかの共通点を表現する動物が存在すると睡眠障害改善のヒントが得られる可能性が高い。
(本多和樹「睡眠障害と睡眠覚醒調節」序文 p.399)
◆睡眠と生体リズム
ヒトの睡眠覚醒リズムの背後にある体内時計とはなにか、睡眠を中心に解説する。睡眠覚醒リズムに関連した振動体仮説を説明し、さらに近年研究の進んでいる時計遺伝子について解説する.(橋本聡子p.400)
◆酸化ストレスと睡眠
われわれは、t-ブチルヒドロペルオキシドを用いて、ラット脳に人為的な酸化ストレスを負荷したところ、睡眠量の増加と、睡眠中枢(視索前野/前視床下部)におけるアデノシンや一酸化窒素遊離を観察した。この結果は、ある程度の酸化ストレスには睡眠物質遊離や眠気を促進する効果があることを示している。脳の疲労と回復は、酸化ストレスの蓄積(覚醒)と解毒(睡眠)と解釈できるのかもしれない.(池田昌美p.404)
◆睡眠の分子生物学
近年、様々な動物種におけるゲノム解析が進み、系統的には離れた種の間でも多くの遺伝子が保存され、共有されていることが判明している。睡眠は動物界において広く観察される生理現象であるが、遺伝学的ツールとして古くから重宝されてきたショウジョウバエにも睡眠類似行動が報告され、その研究が急速に進んでいる。ショウジョウバエを用いた睡眠研究によって得られた最新の睡眠の分子基盤を紹介する.(上野太郎p.408)
◆睡眠研究と動物モデル
睡眠時無呼吸症やナルコレプシーは強い日中の眠気を引き起こす睡眠障害で社会的な問題となっている。ナルコレプシーでは原因遺伝子が明らかにされイヌやマウスの動物モデルが存在する。睡眠時無呼吸症では肥満との関連が指摘されているが、サル、ブルドッグ、マウス等の動物モデルが研究に利用されている。睡眠異常の動物モデルの開発により睡眠研究が進展し、睡眠障害の治療法改善が期待されている.(本多和樹p.413)
◆神経疾患と睡眠障害
神経疾患による睡眠障害は、脳内病変により睡眠・覚醒をコントロールする神経機構の障害、呼吸筋筋力低下や不随意運動といった神経症状、治療薬、心理的要因などが複合的に関与する。典型的な神経症状が出現する前に、睡眠障害が前駆する神経変性疾患もある。各種神経疾患の睡眠障害の発生機序を理解することで、初めて適切な治療が可能となる.(有竹清夏p.418)
◆ 睡眠障害の治療
睡眠科学が飛躍的に進歩し、睡眠障害の病態理解や治療にも基礎研究が生かされるようになってきた。本稿では頻度の高い睡眠障害とその治療法の現況について、非薬物療法を含めて概説するとともに、研究進展で明らかにされつつある睡眠覚醒調節に関わる分子を標的とする、将来の薬物開発の可能性を述べる.(本多真p.422)
◆循環器と睡眠異常
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、循環器疾患に合併する事が明らかとなっている。その機序は、夜間の頻回な無呼吸により交感神経が活性化して血圧が上昇し、その結果心不全、虚血性心疾患、不整脈などを来すと理解されている。我々は、SASを治療する事により、心室性不整脈の発生を抑制出来る症例があることを証明した。SASと循環器疾患は緊密に結びついているが、その病態や治療については、まだ不明の点が多く、今後の研究が期待されている.(鈴木淳一p.427)
◆呼吸器と睡眠異常
呼吸は心臓と異なり随意的に変化させることができるが、通常は無意識のうちに神経および液性機構の制御を受けている。また、呼吸は安静時、運動時、睡眠時においてそれぞれ異なる生理的な呼吸制御系の変化がみられる。とくに、睡眠中はレム期にこうした呼吸制御系が不安定となり、近年話題になっている睡眠時無呼吸症候群に代表される睡眠呼吸障害の発症に密接に関連している.(市岡正彦p.432)
総 説
◆リアルタイム三次元心エコー法
非侵襲的に心機能を評価することは、薬理学的および毒性学的研究において重要であり、左室駆出率、左室容量、壁運動異常の部位や広がりは、薬物の心臓への作用を知るために欠く事が出来ない情報である。近年では、CT、MRIにより三次元、四次元的な画像による評価が行えるようになった。ここでは、心エコー図法の中でもリアルタイム三次元心エコー法による左室機能の評価法について紹介する.(鬼頭 剛p.437)
実験技術
◆マウス網膜障害モデル
これまで網膜障害の検討にはラット,ウサギ,サルなどの大動物が中心に用いられてきた.一方,マウスは多くの遺伝子改変動物が利用できるため病態解明には有用な動物種であるが,実験手技の難しさからマウスを用いた網膜障害の検討はほとんど行われてこなかった.そこで,マウス網膜障害モデルを確立したので,その作製法並びにその評価法について紹介する.(嶋澤雅光p.445)
◆網膜血管新生阻害作用
糖尿病網膜症や未熟児網膜症などの網膜血管新生疾患は硝子体内に病的な血管新生が進展することにより不
可逆的な視野欠損や失明を引き起こす.そこで本稿では,網膜血管新生阻害作用を検討するためのin vitroお
よびin vivo評価系を紹介する.本評価系は,簡便かつ定量評価できることから,網膜血管新生阻害薬探索にお
ける評価系ならびに病態解明に有用であることが考えられる.(力石裕一p.451)
◆Delayed spatial win-shift課題
実験動物において、空間記憶の評価には放射状迷路試験が汎用されている。放射状迷路を用いた実験方法の中でもdelayed spatial win-shift(SWSh)課題は、遅延反応を使った行動課題の一種であり、遅延時間を挟んで訓練試行と保持試行より成る。本稿では、作業記憶の評価に最も適した方法の1つであるdelayed
SWSh課題を用いたラットの空間作業記憶の評価方法ついて述べる.(永井拓p.457)
創薬シリーズ(3) その1 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
◆一般毒性試験
医薬品の開発においては開発ステージに応じた毒性試験が求められており,その中でも単回投与毒性試験と反復投与毒性試験は非臨床安全性評価の基本となる重要な試験といえる。内容そのものについては,ICHの合意に基づいたガイドラインやその解説書が発行されているので,本稿では得られた結果の安全性評価について実践的な観点から言及する.(堀井郁夫p.463)
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