●行動薬理学入門●
◆序文
本特集は、行動薬理学全般に関する基礎知識から各種行動評価を行う上での手順、特徴(有用性と注意点)、得られたデータの考え方、さらには関連する研究の最新知見まで詳説された、行動薬理学的研究の指南書である。
(武田弘志 「行動薬理学入門」序文 p.93)
◆行動薬理学における動物モデル
動物実験の結果からヒトの精神疾患に対する薬物の治療効果を的確に予測する為には、実験方法の確立とその選択はもとより、妥当性の高い動物モデル(病態モデル)の確立が喫緊の課題である。問題は何か?展望はあるか?(山本経之 p.94)
◆抑うつ様行動
ストレス社会とも呼ばれる現代では、代表的なストレス性精神疾患であるうつ病の罹患率は年々上昇の一途を辿っている。このような社会的背景を踏まえると、未だ不明な点が多いうつ病の病態生理の解明や新たな治療戦略の開発は急務かつ重要な研究課題である。本稿では、これらに関する基礎医学研究で必要不可欠な、実験動物の抑うつ様行動の評価法の特徴や問題点について概説する.(辻 稔 p.97)
◆不安関連行動
ラットやマウスはどのように不安や恐怖を感じているか? その「キモチ」を如何に評価するか? 様々な実験的ストレスを実験動物に負荷し、不安や恐怖を誘発させることによって、これに伴って発現する不安関連行動を評価する。これらの評価方法は、抗不安薬をスクリーニングするために開発され、現在では薬効評価のみならず、遺伝子改変動物や疾患モデル動物の不安関連行動の行動変容を検索するためにも応用されている.(山口 拓 p.105)
◆学習・記憶行動
学習・記憶は,ヒトの高度な知的活動の中核を担う重要な機能であり,認知症や発達障害など学習・記憶障害を伴う疾患の増加は,昨今我が国が直面している大きな社会問題である.本稿では,今後これらの記憶障害に関連した疾患の病態解明ならびに治療薬開発において必須と考えられる「小動物を用いた学習・記憶の行動学的測定方法」について紹介する.(田熊一敞 p.112)
◆統合失調症様行動
統合失調症の病態(陽性症状・陰性症状および認知障害)に関して、いくつかの仮説(ドパミン過剰仮説、グルタミン酸低下仮説、神経発達障害仮説)が提唱されている。本稿では統合失調症様モデル動物の1つであるフェンシクリジン(PCP)投与モデル動物を用いた統合失調症様の精神行動障害の評価方法について紹介する.(野田幸裕 p.117)
◆
疼痛行動
臨床において慢性疼痛患者はその痛みのために、不安や抑うつ状態に陥りやすく、QOL の低下の原因になることが、深刻な問題となっている。また、不安や抑うつ等の精神症状は疼痛閾値を下げ、病態を複雑にし、痛みの慢性化や難治性化を引き起こすことも知られている。そのため、疼痛発現機序や疼痛に対する治療法を行動薬理学的のみず分子生物学的に詳細に検討することは、今後の疼痛治療に非常に重要な点である.
(成田 年 p.124)
◆薬物依存性
ヒトは薬物摂取で得られる多幸感や陶酔感の虜になり、精神依存に陥る。こうした薬物を動物に投与すると、薬物、餌などの摂取行動や薬物環境に連関する場所での行動変化が発現する。この現象を、規格化された条件下で評価することは、薬物依存形成の脳内メカニズム解明や新薬開発の副作用評価において重要である。本稿では、条件付け場所嗜好性試験を中心に、薬物の精神依存性を評価する行動薬理学的手法を紹介する.(舩田正彦 p.128)
総 説
◆カンナビノイド受容体
大麻は紀元前から繊維、食物そして薬物として3つの役割を持った特異な植物として注目を浴びてきた。内在性カンナビノイドならびにその受容体は意欲や多幸感・満足感を創生する脳内報酬系との関連性が示唆され、その破綻が精神疾患を誘引している可能性も指摘されている。この脳内“大麻様物質”の発見は、脳内オピオイドの発見とその後のブレイクスルーを彷彿させるものであり、脳の多彩な機能の解明の新たな礎となることに疑いの余地はない.(山本経之 p.135)
実験技術
◆水探索試験における潜在学習能
水探索試験は、絶水していないマウスを一度だけ給水ビンのある環境に暴露した時、その中にある給水ビンのノズルの位置について覚えているかどうかを指標にする学習・記憶試験である。このように潜在学習は多くの神経系の相互作用により細胞内情報伝達が変化することのより形成されるものと考えられている.(毛利彰宏 p.141)
治療薬シリーズ(17)抗ウイルス薬
◆抗HIV薬
近年,逆転写酵素阻害薬,プロテアーゼ阻害薬を用いた多剤併用療法により,AIDSの発症を抑えることが可能になってきた。薬剤使用に伴う耐性ウイルスの出現が問題となっているが,融合阻害薬,インテグラーゼ阻害薬,CCR5阻害薬,ウイルス粒子成熟阻害薬など新規作用機序を持つ薬剤の開発も進んでおり,今後さらに治療の選択肢が増えることが期待される。(田中英夫 p.147)
◆抗HIV薬の臨床
現在の抗HIV療法は、カクテル療法と呼ばれているように、多剤併用にて行われているのが一般的である。これは、薬剤耐性HIVの出現を抑えるためであるが、実際には、服薬の不良などにより、薬剤耐性変異が起こってしまうこともある。また。実際の臨床では、長期内服に伴う副作用の問題も重要視されてきている.(潟永博之 p.152)
創薬シリーズ(3) その1 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
◆がん原性試験
国内で医薬品のがん原性試験法がガイドラインに記載されてから、既に25年以上が経過している。がん原性試験には評価期間を含めると3年に及ぶ期間と多くの動物を使用し、再試験が容易ではないことから、試験計画の立案は慎重に行う必要がある。投薬起因の腫瘍発生がみられた際には、それがヒトでの発がんリスクを示唆するものか否かの判断も重要である。また、同時にその医薬品のげっ歯類での慢性毒性評価も試験目的に含まれる.(田中丸善洋 p.157)
◆局所刺激性試験
経皮製剤など局所製剤の開発では,動物を用いた局所刺激性試験結果から,ヒトへの安全性予測が行なわれてきたが,最近ではin vitro評価系(動物実験代替法)の開発・検証もあり,局所刺激性評価の選択肢も広がりつつある.各評価系が局所刺激性発現のどのプロセスを反映したものなのか,ヒトとの乖離の程度などをよく理解し,評価系の選択・組み合わせを行うべきである.(河内 猛 p.163)
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