●ヘム代謝 ~新規創薬へ向けて~●
◆序文
生体内普遍的物質であるヘムが関与する新たな生理的役割が次々と解明され、注目されている。本特集ではヘム代謝をめぐる最近の知見について「薬」を切り口として総説し、新しい観点からの創薬への手がかりとする。(赤木玲子「ヘム代謝~新規創薬へ向けて~」序文 p.247)
◆フリー・ヘムによる遺伝子発現調節
酸化的ストレスに対してヘムオキシゲナーゼ(HO)活性が上昇する事は良く知られている。HOはフリー・ヘム濃度の上昇を抑える事により、組織を障害から守っている。ヘムはHOを含む重要な遺伝子のtranscriptional
regulationに関わる分子としても機能している。HO遺伝子を活性化する物質の探索は急性炎症など酸化的組織障害の新規治療に繋がると考えられる.(佐々 茂 p.248)
◆ヘムオキシゲナーゼ-1の臓器保護的役割
急性臓器不全ではpro-oxidantである”遊離ヘム”が介在する酸化ストレスが細胞傷害に大きな役割を果たしている。しかし、酸化ストレスに有効な薬剤は未だ開発されていない。酸化ストレスによって誘導され細胞保護的に働くヘム分解の律速酵素:
Heme Oxygenase-1(HO-1)を障害臓器特異的に誘導する物質の開発は急性臓器不全治療の創薬ターゲットである.(高橋 徹 p.252)
◆ヘムオキシゲナーゼ-1によるアレルギー性炎症抑制
ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が肥満細胞の抗原抗体反応によって産生される炎症性メディエーター(TNF-αやIL-3、MIP-1β)を抑制する作用を有していることを明らかにし、HO-1によるアレルギー性炎症の増悪化を抑制する可能性を示唆した.(西井(安井)
ゆみこ p.257)
◆NSAIDsによるヘムオキシゲナーゼ-1誘導
アスピリンを代表とする非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の胃潰瘍副作用が臨床現場で大きな問題になっている。米国ではこの副作用のため、エイズ死者数に匹敵する年間16500人が亡くなっている。最近我々は、NSAIDsによる胃粘膜細胞死がこの副作用の発症に必須であることを報告した。そしてHO-1の誘導剤が、NSAIDs依存の胃粘膜細胞死を抑制することにより、この副作用を抑える可能性を見出したので報告する.(水島徹
p.262)
◆ヘム合成系酵素欠損症における分子異常と発症
ヘム合成系の代謝異常により発症するポルフィリン症は、原因の多様性が分子レベルで解明されるようになってきた。ある種の薬物投与による薬物代謝酵素チトクロムP450の誘導はヘム供給不足に拍車をかけ、症状を著しく増悪化することが知られている。ポルフィリン症の発症の引き金となる因子の多様性を紹介し、分子異常との関係について解説する.(赤木玲子 p.266)
◆ヒトABCトランスポーターの役割
ヒトABCトランスポーターは、ATP依存的に生体異物や薬物の輸送に関与する膜タンパク質である。最近の研究によって、ABCB6, ABCG2,
ABCC1, ABCC2がポルフィリン生合成やヘム代謝に密接に関与していることが示された。この総説では、当該分野での最新の知見を紹介しつつ、ポルフィリン生合成やヘム代謝におけるヒトABCトランスポーターの役割を議論する.(田村 藍 p.270)
総 説
◆科学の不正と利益相反
知識人の趣味であった科学が、社会の問題解決という目的を持つようになり、科学の不正の社会的影響が無視できなくなった。不正はピアレビューと追試による検証と内部告発で発見される。不正防止のためには科学者集団が科学の品質を保証するシステムを構築するとともに、研究者が功利主義ではなく義務論に基づいて行動することが必要である.(唐木英明 p.275)
実験技術
◆遺伝子改変マウスの表現型解析法
SHIRPA 法は、従来からあった遺伝子改変マウスの表現型解析法における問題点を考慮し、簡易かつ迅速に表現型を抽出するために開発された3段階からなる実験方法である.本稿では,
特に行動学的表現型を網羅的に評価できる方法として有用であるSHIRPA一次スクリーニング法について述べる.
(笠井淳司 p.281)
治療薬シリーズ(19)抗細菌薬
◆キノロン系抗菌薬の基礎
キノロン系抗菌薬(以下,キノロン)はβ-ラクタム薬やマクロライド薬と並び,感染症の治療に重要なポジションを占める薬剤である。本稿ではキノロンの開発の歴史から新薬開発状況,構造活性相関,作用機序などを含めた基礎について述べてみたい.(満山順一 p.287)
◆マクロライド系抗菌薬を中心に
マクロライド系抗菌薬は,グラム陽性菌および非定型病原体に対する抗菌力が強く,呼吸器疾患の治療薬として汎用されてきた。本稿では,14員環,15員環マクロライド系およびケトライド系抗菌薬を中心に,これらの創薬・開発研究の歴史並びに抗菌作用の特徴を紹介したい.(明石 敏 p.294)
創薬シリーズ(3)その1 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験⑧
◆安全性薬理試験
安全性薬理試験の目的は、治療用量およびそれ以上の曝露に関連した被験物質の生理機能に対する潜在的な望ましくない薬力学的作用を検討することである。本稿では、特に、試験項目の選択、用量設定、臨床試験のタイミングとの関係、代謝物の安全性薬理試験の考え方などについて、製薬企業における安全性薬理試験の担当者の立場から、例示を含めながら解説する.(山本恵司 p.299)
新薬紹介総説
◆骨粗鬆症治療薬アレンドロネート週1回投与製剤
フォサマック錠35 mg/ボナロン錠35 mgは、国内初の週1回経口投与可能な窒素含有ビスホスホネート系の骨粗鬆症治療薬で、アレンドロネートをアレンドロン酸として35
mg含有する。腰椎骨密度を評価項目とした第Ⅲ相二重盲検比較試験で、アレンドロネート35 mg週1回投与製剤は、既に発売されているアレンドロネート5
mg 1日1回投与製剤と同等の有効性および同様の安全性を有することが示された。アレンドロネート週1回投与製剤の登場は、患者さんの利便性を増大すると共に服薬コンプライアンスの向上に寄与するものと期待される.(内田真嗣 p.305)
◆パーキンソン病治療薬ロピニロール塩酸塩
ロピニロール塩酸塩は、D2受容体ファミリー(D2、D3、D4)に高い選択性を示す非麦角系ドパミンアゴニストであり、抗パーキンソン病作用を有する。また、in
vitroおよび in vivoの両実験系で神経保護作用を有することが示唆されており、パーキンソン病患者を対象とした臨床試験においては、高いADL改善効果およびoff時間の短縮効果が示されている.(新井裕幸 p.313)
◆レミフェンタニル塩酸塩
アルチバR(レミフェンタニル塩酸塩)は,選択的μ-オピオイド受容体アゴニストであり,全身麻酔で用いる鎮痛薬の問題点を克服するために開発された,超短時間作用性の鎮痛剤である.本剤の鎮痛作用は,静脈内投与後速やかに発現し,作用消失も早く蓄積性が認められない.本稿では本剤のこれら薬理学的特徴に加え臨床試験成績を紹介する.(野村俊治 p.321)
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