●神経伝達物質トランスポーター研究の新しい展開●
◆序文
神経伝達物質トランスポーターは神経伝達の調節に重要な役割を担い,その研究成果は抗うつ薬等臨床で重要な薬物の創薬基盤をなす。本特集では,新たな展開を迎えたその研究について,基礎から臨床に渡り紹介する。(北山滋雄 「神経伝達物質トランスポーター研究の新しい展開」序文
p.443)
◆構造,機能,発現とその制御
細胞膜の神経伝達物質トランスポーターは,遊離された神経伝達物質の再取り込み(reuptake)によりその神経伝達を速やかに終結させる.抗うつ薬やコカイン,覚醒剤などの中枢興奮薬等多くの薬物がこの再取り込み機構に作用する.バクテリアホモログの結晶解析からもたらされたトランスポーター構造の知見をもとに,神経伝達物質トランスポーターの構造・機能・発現の新しい考えを紹介する.
(北山滋雄 神経伝達物質トランスポーターの構造,機能,発現とその制御 p.444)
◆依存性薬物とモノアミントランスポ-タ-
覚せい剤は細胞膜およびシナプス小胞モノアミントランスポーターを標的分子とし、コカイン、メタンフェタミン、メチルフェニデートは異なる作用機序を有する。依存性薬物の作用機序の解明は、モノアミン神経伝達が重要な役割を果たす報酬、認知などの高次神経機能を明らかにすることに貢献することが期待される.(曽良一郎 依存性薬物の分子標的としてのモノアミントランスポ-タ- p.450)
◆グルタミン酸トランスポーターと脳形成
脳形成シグナル因子としてのグルタミン酸の役割を解明するため、グルタミン酸トランスポーター(GluT)を欠損させ、細胞外グルタミン酸濃度を上昇させた『グルタミン酸受容体過剰刺激モデルマウス』を作成した。モデルマウスは、胎生17日以降死亡し、中枢神経系には様々な異常が観察された。本研究により、GluTによる細胞外グルタミン酸濃度の制御が胎生期の脳形成に重要であることが、in
vivoで初めて証明された. (田中光一 グルタミン酸トランスポーターと脳形成 p.455)
◆グリシントランスポーターと神経因性疼痛
グリシン作動性抑制系の脱抑制が病態生理学的疼痛の発症に重要な関わりを有することが明らかになってきた.グリシン神経の薬理学的な機能強化を治療戦略とすることは十分可能である.グリシン神経活性を高めるグリシントランスポーター阻害薬の神経因性疼痛薬物療法の可能性について紹介する.
(森田克也 グリシントランスポーターによる神経因性疼痛の制御 p.458)
◆セロトニントランスポーターから見たうつ病の病態と治療
PETを用いてヒト脳内セロトニントランスポーターをin vivoで定量することが可能である。PETによるうつ病の病態研究および抗うつ薬の評価について概説する.(松本良平 PETによるセロトニントランスポーターのイメージングから見たうつ病の病態と治療 p.464)
総 説
◆気分障害の治療と概日リズム
気分障害の治療に用いられるリチウムの気分安定化作用の発現機序は明らかになっていないが、その標的分子としてGSK3βやイノシトールモノホスファターゼ(IMPase)があり、これらの分子の活性化を抑制することが知られている。リチウムはGSK3βを介して時計遺伝子産物の細胞内局在や寿命を変え、概日リズムを調節していることが明らかになってきた.(池田正明 気分障害の治療と概日リズム
-リチウムの作用機構と時計遺伝子の関連について- p.469)
◆神経細胞死と神経変性疾患
神経変性疾患は,神経細胞死を起因とする進行性疾患であるが,その大半は未だ発症原因が不明であり「神経難病」と呼ばれている.本稿では,小胞体およびミトコンドリアの機能変化にスポットライトを当てながら,神経変性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発を目指して進められている神経細胞死の最先端研究を紹介する.(今泉和則 神経細胞死と神経変性疾患の最先端研究 p.477)
実験技術
◆実験的アレルギー性鼻炎モデル
ヒトの病態を反映した良好な実験動物モデルは、新規治療薬の開発において重要な位置にある。我々は、十余年前、良好なアレルギー性鼻炎モデルが存在しないことに着目し、本モデルの開発を企図した。ここでは、動物モデルの開発を行う際に、慢性化を辿るヒトの病態に類似した症状を呈することを目的とし、感作は全身感作ではなく鼻局所、また抗原による惹起は単回ではなく繰り返し行うことより症状を誘発させたモデルを紹介する.(水谷暢明 スギ花粉を用いた実験的アレルギー性鼻炎モデルの開発 p.483)
治療薬シリーズ(21)アルツハイマー病
◆アルツハイマー病治療薬の基礎
アルツハイマー病治療薬(AD)の神経伝達メカニズムの基礎研究からコリン作動性神経の障害が見出され、コリンエステラーゼ阻害薬が実用化してきた。一方、ADの病理変化に端を発した病態解明研究からアミロイド・βタンパク(Aβ)がADの原因あるいは発症に密接に関与しているとするアミロイド仮説から、Aβの代謝に関与する酵素の阻害薬およびAD
の免疫療法の研究開発が行われてきている。AD治療薬研究の現状を概観する. (山西嘉晴 アルツハイマー病治療薬の基礎 p.489)
◆アルツハイマー病治療薬の臨床
アルツハイマー病の中核症状である認知機能障害に対する治療薬として、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジルの臨床的有用性はすでに確立し、臨床の現場ではいかに処方を継続していくかが焦点となっている。一方、行動および心理症状(BPSD)に対する非定型抗精神病薬の有用性については、その安全性を含めて議論がある.(新井哲明 アルツハイマー病治療薬の臨床 p.494)
創薬シリーズ(3)その2 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験③④
◆ICHとは何か
医薬品開発は、多くの年月と資源を費やして医薬品として患者の下に届けられるが、医薬品開発の国際化への対応のネックとなっていた新医薬品の承認審査に関する各国・地域の規制について、1990年より日米EUの3地域での調和に向けた作業がICHとして開始された。ICHの成果は今日まで、医薬品開発の効率化に大きく寄与しているが、本稿を、ICHについて、その目的と経緯、プロセス、そして、その成果と現状について、安全性・非臨床試験を中心に理解するきっかけになれば幸いである.
(佐神文郎 ICHとは何か -安全性ガイドラインの現状 p.499)
◆動物実験代替法
「動物の愛護及び管理に関する法律」の基本的な考え方には、3Rs(Reduction:実験動物の削減、Refinement:実験動物の苦痛の軽減、Replacement:実験動物の置き換え)がある。削減や置換試験法の確立のためにはバリデーションや第三者専門家による評価が必要であり、この使命を果たすために、国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター内に新規試験法評価室が設立された.
(小島肇夫 動物実験代替法の現状と展望 p.505)
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