総 説
◆ストレス適応の神経生理学的基盤
われわれはストレス適応の神経生理学的基盤を明らかにするために、脳機能画像解析法を用いた検討を行っている。その結果、ストレス事象は脳内において認知されること、急性ストレスにより脳内機構の一部に変化が生じること、予測がストレス事象の入力を抑制する可能性が考えられた。さらに、これらの機能において前頭葉が重要な役割を果たしていることが推定された。また、うつ病患者を対象とした研究からは、これらの脳内機構が障害を来していることが考えられた.
(岡本泰昌 ストレス適応の神経生理学的基盤- p.5)
◆気分障害治療薬開発の将来展望
ヒトは如何にしてストレスに適応し健康を維持しているのであろうか?ストレス適応機構の研究は,生体の巧妙な恒常性維持機構の理解のみならず,様々なストレス性疾患の病態解明や新たな予防・治療戦略の提言につながる重要な課題である.本稿では,ストレス適応の形成機構における脳内セロトニン神経の重要性を示唆する知見を紹介し,それらを基盤とした新たな気分障害治療開発の将来展望について考察する.
(辻 稔 ストレス適応研究からみた気分障害治療薬開発の将来展望 p.11)
◆MT1/MT2受容体作動薬ラメルテオンの研究開発
近年、不眠症治療薬のquality of life (QOL)に及ぼす影響が注目されている。現在、不眠症治療薬として使用されているGABAA受容体(ベンゾジアゼピン受容体)作動薬は、脳内のあらゆる部位に存在し、種々の生理機能に関与することから、睡眠誘発作用と同時に健忘、運動機能障害、依存性など様々な副作用を示す。また、不眠症治療薬として用いた場合、翌日のふらつきなど持越し効果、薬物投与中止時のリバウンド、さらには薬物に対する依存性など多くの問題が指摘されている。私達は、睡眠覚醒リズムに関与するメラトニンに注目し、MT1/MT2受容体に選択的作用するラメルテオンを不眠症治療薬として開発した。ここでは、ラメルテオンの開発の経緯と薬効薬理の特徴について紹介する.
(宮本政臣 不眠症治療薬とQOL: MT1/MT2受容体作動薬ラメルテオンの研究開発 p.16)
◆アレルギー研究の進歩
アレルギー患者の数は増加の一途をたどっており、より確実な治療戦略の構築が望まれている。自然免疫機構の解明はアレルギー克服に手がかりを与える可能性がある。Th1/Th2
バランスの矯正、制御性 T 細胞の誘導あるいは移入、アレルギーに関わる遺伝因子発現の制御もアレルギー克服に役立つと思われる。また、ステロイドなど、既存の薬物の効果的な使用方法も検討されている.
(稲垣直樹 最近のアレルギー研究の進歩 p.22)
◆Lab on a chip
技術の創薬研究への応用
Lab on a chipは、酵素や基質の混合、反応、分離、検出の操作をチップ上に集積、微細流路でそれぞれを統合し、一連の操作を自動化する技術である。現在、Lab
on a chipは臨床検査分野に応用が図られようとされている一方、医薬品開発における、化合物スクリーニング(HTS)や化合物の阻害機序解明にLab
on a chipを応用するプラットフォームが登場した。Lab on a chip 技術の概要を紹介し、化合物探索においてどのように応用できるかを紹介する.
(高山喜好 Lab on a chip 技術の創薬研究への応用 p.28)
実験技術
◆睡眠障害モデル動物
ベンゾジアゼピンおよびその類似薬は,医療現場で代表的な睡眠薬として繁用されており,その効果について数多くの報告がある.しかし,実験動物で,これらの薬物の作用を検討した成績の多くは,健常な動物を用いたものである.そこで,著者らは,今回,ラットを用いて睡眠薬の薬効評価を行う上で有用な睡眠障害モデルを作製し,このモデルに対する各種睡眠薬の効果を検討したので紹介する.
(四宮一昭 睡眠障害モデル動物を用いた睡眠薬の薬効評価 p.33)
◆急性および慢性腎不全モデル
正常腎が行っている排泄機構を主体とする腎機能が障害された状態を腎不全といい,機能低下の進行速度の違いにより急性腎不全と慢性腎不全に大別される.本稿では,ラット,マウスを用いた虚血再灌流誘発性急性腎不全モデルおよび腎部分摘除慢性腎不全モデルを紹介する.さらに,腎機能低下の程度や進行ならびに組織病変はそれぞれの病態モデルで特徴的であるため,それらがわかるように著者らの実験結果についても記述する.
(高山淳二 ラットおよびマウスにおける腎機能低下モデルの簡便な作製方法―急性および慢性腎不全モデル― p.37)
治療薬シリーズ(22)加齢黄斑変性治療薬
◆基礎と創薬ターゲット
糖尿病網膜症や緑内障のように広く知られた眼科疾患とは異なり、国内でようやく認知されるようになった加齢黄斑変性について、その基礎面として滲出型と萎縮型のタイプ別に、疫学、病状、診断、治療、病因および現存薬剤、さらには今後の新薬について簡単にまとめてみた.
(松野 聖 加齢黄斑変性治療薬の基礎と創薬ターゲット p.43)
◆薬物治療の現状および問題点
加齢黄斑変性は失明原因として注目されており、その中心的病態は血管内皮増殖因子(VEGF)に依存する脈絡膜血管新生である。最近、VEGF阻害薬の臨床応用が実現し、少なくとも短期的には有効であることがわかった。しかし、至適な投与法、長期の安全性など、検討すべき課題は多い。本稿では、加齢黄斑変性の薬物治療として実現した抗VEGF療法の現状および問題点について解説する.
(石田晋 加齢黄斑変性に対する薬物治療の現状および問題点 p.47)
創薬シリーズ(3)その3化合物を医薬品にするために必要な安全性試験①
◆視覚毒性
薬物の眼に対する影響は、ヒトでは自覚症状として容易に検出されるが実験動物を用いる非臨床試験の中で検出するのは容易ではない。特に、動物における視機能に及ぼす影響の評価法はヒトへの外挿性を考慮すると未だ限定的である。今月は、動物における視機能を含む各種の眼毒性評価法を概説すると共に、薬物による眼毒性の主な事例を紹介する.
(佐藤秀蔵 視覚毒性 p.50)
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